著者
和田 孝明 吉田 昌平 吉川 信人 豊島 康直 秋本 剛 杉之下 武彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101699-48101699, 2013

【はじめに、目的】 従来の自転車エルゴメーターを用いた体力テストで求められる最大無酸素パワー(MAnP)はペダル負荷が重く、低回転数で得られるパワーのみの評価であった。それに加えて吉田らは、ペダル負荷が軽く、高回転で得られるピーク回転数を評価することで動作の特異性を予測することが可能なPrediction of Instantaneous power and Agility performances used by pedaling test(PIA pedaling test)を考案した。 本研究では、大学生男子サッカー選手と高校生男子サッカー選手においてPIA pedaling testを実施し、それぞれの世代のパフォーマンスの特異性について検討することを目的とした。【方法】 大学生男子サッカー部(関西1部リーグ)53名(年齢19.4±1.1歳、身長173.5±7.2cm、体重167.6±17.4cm、体重62.4±8.7kg)と高校生男子サッカー部(京都府ベスト4)40名(年齢16.2±0.7歳、身長167.6±17.4cm、体重62.4±8.7kg)を対象とした。 自転車エルゴメーターにおけるパワー発揮能力の評価はcombi社製PowerMaxVIIを使用し、十分なウォーミングアップの後に体重の5、7.5、10%の各負荷でそれぞれ10秒間の全力ペダリングを実施し、中村らの方法にて最大無酸素パワー(MAnP)を求めた。セット間の休息は2分とした。パワー発揮能力の指標はMAnPにおける体重当たりの仕事量(HP)と、5%負荷におけるピーク回転数(HF)とした。大学生と高校生のパワー発揮能力について検討した。統計処理には大学生と高校生のHPとHFのそれぞれの比較に対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の研究において対象者に研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】 大学生はHPが13.4±1.3watts/kgであり、HFは187.6±10.1rpmであった。高校生はHPが13.7±1.6watts/kgであり、HFは178.8±12.5rpmであった。大学生と高校生のHPに有意差はないが(p=0.34)、HFでは大学生が高校生より有意に高かった(p<0.01)。【考察】 PIA pedaling testで評価されるHPは、股関節伸展筋力を中心とした脚伸展筋力を主動作筋とし、実際の動作における垂直跳びと相関を認めた(吉田ら、2007)。また、HFは股関節屈曲筋力を中心とした脚屈曲筋力を主動作筋とし、実際の動作におけるアジリティーと相関を認めた(吉田ら、2009)。したがって、同じ自転車エルゴメーターにおける全力ペダリングであっても、負荷の違いによりその主動作筋は変化し、評価の対象となる筋やパフォーマンスは異なる。このことからPIA pedaling testは、狭義の体力要素の中でも瞬発力やアジリティーといった動作の特異性を客観的に評価が可能になると考える。 本研究の結果は、大学生と高校生を比較し瞬発力に有意差は認められなかったが、アジリティー能力において大学生が有意に高値を示していた。Hiroseら(2010)は、成長段階であるユース年代のフィールドテストにおいて20mや40mスプリントのような単純課題のパフォーマンステストでは成長に伴う順位変動が低く、シャトルランのような複雑な課題によるフィールドテストでは、成長に伴う順位変動が大きいことを報告している。つまり、瞬発力の要素が大きくなる20mや40mスプリントでは、そのスピードがタレント的素因に影響していると考えられるが、アジリティーの要素が大きくなるシャトルランのような複雑な動作では、成長過程によるトレーニングやそれに伴う環境的な要因に左右されることが考えられる。したがって、ユース年代のトレーニングではアジリティーに対するトレーニングを積極的に行わせることや、その主動作筋と考えられる脚屈曲筋力に対するアプローチを行うことが、パフォーマンスの向上の一要因となると考えた。【理学療法学研究としての意義】 今回の我々の結果から大学生、高校生サッカー選手の基本的体力要素である瞬発力とアジリティーについてその特徴が明確となった。また成長段階であるユース年代の選手ではアジリティーを向上させるトレーニングを導入することで、パフォーマンス向上に寄与できると考える。