著者
植田 勝間 豊川 元一 中森 宏 迫 久男 梅咲 直彦 須川 佶
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.569-573, 1977-05-01

近年,卵巣癌の発生頻度は増加する傾向にあると考えられるが,現在一般に施行されている本疾患に対する診断法(双合診,細胞診,超音波断層法および骨盤内血管撮影法など)は,いずれも腫瘍の存在を把握し得たとしても良性か悪性かの鑑別には未だ十分な根拠とはなつておらず,とくに早期診断には全く無力と言つても過言ではない. 本研究は免疫学的側面より卵巣癌診断へのアプローチをおこない,その有用性を追求したものである.まず,卵巣癌の癌塊の大きさと患者末梢血の血清効果(plant mitogenによる健常人リンパ球DNA合成能を抑制する血清の効果)の対比検討をおこない,次いで患者末梢血の血清効果の増大を惹起させ得る最小の癌塊の大きさの限界を把握することから,本法が卵巣癌の早期診断に有力なる診断法となりうるかを検討した. その結果, (1) 卵巣癌患者のリンパ球のPHAに対する反応性は,対照群に比して若干低下していた(P<0.05). (2) 卵巣癌患者の末梢血の血清効果は,健常人および良性卵巣腫瘍患者のそれに比して,有意に増強していたが(P<0.01),後2者間においては有意差は認められなかつた. (3) 卵巣癌患者において,癌塊の大きさが増大するにつれて,患者末梢血の血清効果が増強する傾向がうかがわれ,且つ又,鵞卵大の癌腫において,すでに良性卵巣腫瘍に比して著明な血清効果が認められた(P<0.01). 以上の成績より,卵巣癌患者における血清効果の強弱は癌組織由来の免疫抑制因子の量的増減により惹起されるものと考えられ,また卵巣癌の診断において比較的早期の例においても本法が有用であると考えられた.