著者
豊川 秀訓 鈴木 昌世
出版者
(財)高輝度光科学研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

半導体放射線検出器の電子等価雑音は電子・正孔密度(n_e,n_h)に支配され、指数関数的な温度依存性n_e=n_h∝exp(-E_<th>/kT)を示す(E_<th>:活性化エネルギー、T:温度、k:ボルツマン定数)。E_<th>=1.1eVであるシリコンではT=25℃に於ける電子・正孔密度が10^<10>cm^<-3>程度となり、室温動作が可能になる。一方、E_<th>=0.7eVであるゲルマニウムでは、同温度で、10^<13>cm^<-3>となり冷却動作が必須で、放射線計測の常識として液体窒素温度に冷却して使用されている。しかし、近室温領域(T=-65℃)ではゲルマニウム中の電子・正孔密度も室温に於けるシリコンのそれと同程度に減少する事が予想される。更に、この熱雑音電流は、Ge結晶中に一様に存在し、素子体積に比例し、本研究で最終的に想定するピクセルサイズ100μm角程度の微小空乏層に関しては、熱雑音電流が100nA以下に減少することが予想される。一方、入射放射線励起の電子正孔対は、体積には依存せずに、入射放射線の持つエネルギーに比例し、かつ数100μm角程度の微小領域で発生する。この事実は、数100μm角サイズのGe検出器では、暗電流が著しく軽減され、近室温で動作する可能性を示唆する。上記の趣旨に基づき、単素子1mm角の単素子微小Geセンサーを製作した結果、熱雑音電流が室温(22℃)でさえも10μA程度に抑えられ、近室温の-73℃ではさらに2桁程度減少する事を確認した。この結果は、ピクセル化した際の基本的なサイズ、0.2×0.2×0.3mm^3では、約30nA程度になる事を意味し、本課題の目的である近室温で動作が可能である事を示唆する。ただし、印加電圧10V以上では、表面電流の影響と考えられる暗電流の増加が問題となった。この表面電流の影響を防ぐ為に、最終的に、ガードリング付き単電極素子(素子サイズ5mm×5mm×0.5mm、電極面積2mm×2mm)、ガードリング付き多電極型素子(素子サイズ5mm×5mm×0.5mm、電極面積0.75mm×0.75mm、電極数2×2個)を製作した。本研究の結果は、2003年春季応用物理学会(「ゲルマニウム検出器の温度特性」、神奈川大学)、日本物理学会2003年秋季大会(「微小ゲルマニウム検出器の温度特性」、岡山大学)、及び、同学会第59会年次大会(「微小ゲルマニウム検出器の温度特性II」、九州大学)に於いて口頭発表を行った。また、国際会議SRI2003に於いてポスターセッション発表を行った。