著者
土肥 孝彰 上田 勇輝 石井 律子 赤塚 正裕
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.48-56, 2012
被引用文献数
4

アトピー性皮膚炎(AD)治療時にスキンケアとして用いられる保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤,白色ワセリン,尿素製剤)および炎症の鎮静に使用されるステロイド外用剤(プレドニゾロン製剤)ならびにタクロリムス製剤の皮膚バリア機能に及ぼす影響を検討した。実験的モルモットドライスキンモデルを用いて,経表皮水分蒸散量(TEWL)および電子顕微鏡により表皮の角層/顆粒層境界域を観察した。ヘパリン類似物質含有製剤は基剤塗布と比較して有意にTEWL が低下し,皮膚バリア機能回復作用が認められ,尿素製剤,白色ワセリンおよびプレドニゾロン製剤と比較して皮膚バリア機能回復作用は有意に優れており,タクロリムス製剤と同程度であった。また,ヘパリン類似物質含有製剤塗布により,角層/顆粒層境界域で層板顆粒の分泌が盛んになり,層状構造物が多数認められた。さらに,<I>in vitro</I> にてラメラ液晶構造の形成促進作用を検討した。ヘパリン類似物質は著しく強いラメラ液晶構造形成促進作用を示し,タクロリムスも有意な促進作用を示した。以上,ヘパリン類似物質の皮膚バリア機能回復作用にはラメラ液晶構造の形成促進が関与しており,優れた水分保持機能と合わせ,乾燥症状主体のADにおいて,有用性は高いと考えられた。また,タクロリムス製剤はプレドニゾロン製剤と異なり,抗炎症作用だけでなく,皮膚バリア機能回復作用を有し,ADの寛解導入および維持療法に有用であることが示唆された。