著者
石井 律子 片岡 正憲 細川 佐知子 土肥 孝彰 當別當 健司 平野 尚茂 榎本 愛 安藝 裕美 成瀬 友裕
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.51-56, 2007 (Released:2007-03-05)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

ヒルドイド製剤の有効成分であるヘパリン類似物質の保湿作用メカニズムを解明するために,角層の水分保持機能とバリア機能に対する作用を実験的ドライスキンモデルにおいて検討した。ドライスキンモデルは,ヘアレスマウスの背部にアセトン/エーテル(1:1)混液と蒸留水(A/E/W)を1日1回,8日間処置して作製した。ヒルドイド®ソフトまたはヘパリン類似物質を含まない基剤は,A/E/W処置開始翌日より1日1回(100mg),7日間塗布した。A/E/W処置により,角層水分量と天然保湿因子である遊離アミノ酸の量は有意に減少し,経表皮水分蒸散量(TEWL)は有意に上昇した。また,角層細胞間脂質のラメラ構造は破綻していた。病理組織学的には,表皮の肥厚が観察された。ヒルドイド®ソフトを反復塗布すると,A/E/W処置による角層水分量の減少とTEWLの上昇は有意に抑制され,角層中の遊離アミノ酸量は有意に増加した。また,角層細胞間脂質のラメラ構造には回復傾向が認められ,表皮の肥厚は顕著に抑制された。以上の結果から,ヘパリン類似物質はドライスキンにおける角層の水分保持機能とバリア機能の低下を改善し,両機能の改善には主に天然保湿因子の増加が関与しており,角層細胞間脂質のラメラ構造の回復促進も一部,関与していると考えられた。
著者
土肥 孝彰 石井 律子 細川 佐知子 平野 尚茂 成瀬 友裕
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.44-50, 2007 (Released:2007-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
2 4

角層内の水分は, 結合水と自由水の状態で存在しており, 結合水はさらに1次結合水と2次結合水に細分化される。また, 角層細胞間脂質はラメラ構造を形成し, 角層内の水分を2次結合水として捕捉し, 水分保持に大きく関与していることが知られている。そこで, 我々はヘパリン類似物質の保湿作用メカニズムを明らかにする目的で, 結合水量及びラメラ構造に対する作用をin vitro及びin vivoにて検討した。In vitroでは, 卵黄レシチンからラメラ構造を作製し, ヘパリン類似物質添加によるラメラ構造中の結合水量の変化を示差走査熱量計により測定した。ヘパリン類似物質は, ラメラ構造中の結合水量を有意に増加させ, その作用は添加水量に応じて増加する傾向が認められた。in vivoでは, モルモット腹部皮膚にラウリル硫酸ナトリウム処置により実験的ドライスキンを作製し, ヘパリン類似物質を含有するヒルドイド®ローションを5日間反復塗布した後, 角層を採取し, 結合水量の測定, 吸熱ピークパターン解析, 及び電子顕微鏡によるラメラ構造観察を実施した。実験的ドライスキンで破綻した角層細胞間脂質のラメラ構造は, ヒルドイド®ローション反復塗布により回復し, 角層中の結合水量も有意に増加していた。以上の結果から, ヘパリン類似物質の保湿作用は角層細胞間脂質のラメラ構造の回復促進と2次結合水量の増加に基づくものと考えられた。
著者
土肥 孝彰 上田 勇輝 石井 律子 赤塚 正裕
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.48-56, 2012
被引用文献数
4

アトピー性皮膚炎(AD)治療時にスキンケアとして用いられる保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤,白色ワセリン,尿素製剤)および炎症の鎮静に使用されるステロイド外用剤(プレドニゾロン製剤)ならびにタクロリムス製剤の皮膚バリア機能に及ぼす影響を検討した。実験的モルモットドライスキンモデルを用いて,経表皮水分蒸散量(TEWL)および電子顕微鏡により表皮の角層/顆粒層境界域を観察した。ヘパリン類似物質含有製剤は基剤塗布と比較して有意にTEWL が低下し,皮膚バリア機能回復作用が認められ,尿素製剤,白色ワセリンおよびプレドニゾロン製剤と比較して皮膚バリア機能回復作用は有意に優れており,タクロリムス製剤と同程度であった。また,ヘパリン類似物質含有製剤塗布により,角層/顆粒層境界域で層板顆粒の分泌が盛んになり,層状構造物が多数認められた。さらに,<I>in vitro</I> にてラメラ液晶構造の形成促進作用を検討した。ヘパリン類似物質は著しく強いラメラ液晶構造形成促進作用を示し,タクロリムスも有意な促進作用を示した。以上,ヘパリン類似物質の皮膚バリア機能回復作用にはラメラ液晶構造の形成促進が関与しており,優れた水分保持機能と合わせ,乾燥症状主体のADにおいて,有用性は高いと考えられた。また,タクロリムス製剤はプレドニゾロン製剤と異なり,抗炎症作用だけでなく,皮膚バリア機能回復作用を有し,ADの寛解導入および維持療法に有用であることが示唆された。