著者
赤松 英雄
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.95-115, 1982 (Released:2007-03-09)
参考文献数
10
被引用文献数
16 18

長崎港におけるセイシュ (あびき) について統計的に処理し、つぎのような結果を得た。3月が最多発生月であり、年間の発生数は年によりかなり変動がある。また、振幅別発生回数は40∼60cmのものがきわめて多い。「あびき」の継続時間は最大振幅が発生したのち3~4時間後には振幅は1/2~1/3に減少する傾向がある。「あびき」の週期は35分前後のものが多く、長崎港の固有振動の基本モードの周期に一致する。 つぎに1979年3月31日に発生した巨大「あびき」について、その実況を検潮記録から求め、最大振幅が278cmであった事を示した。グリーンの法則から湾口に到達した第一波の波高は約20cmと推算した。また、過去の増幅係数から湾奥の最大振幅は467cmと推算した。 「あびき」による被害について、もっとも典型的なものを2例述べた。 さらに、「あびき」の振動分析から、35~36分、63~67分、17~19分の周期のパワーが大きく、そして今回の「あびき」発生の引き金になった気圧急昇について、各地の気圧記録、高層気象観測資料、ひまわりの可視画像、及び気象レーダー資料から分析した結果、局地的な寒気の流入によるものであった事を示した。 長崎港の振動特性を知るためには数値実験を行い、湾内15点の潮位変動には、35分、20分及び10分の周期の振動が存在し、それぞれの周期は湾の基本振動 (単節)、2節、及び3節振動であることを示した。 これらは、日比谷、梶浦 (1981) の数値実験から得られた結果とほぼ合致し、巨大「あびき」は長崎港内で効果的に増幅された結果によるものであることを述べた。