- 著者
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赤羽根 有里子
- 出版者
- 岡崎女子短期大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1996
本研究では、江戸期昔話絵本の書誌、並びに本文・絵柄の特徴を明らかにすることを目的とした。書誌的事項の調査は、各種書籍目録の記載事項の整理を行い、「桃太郎」四十三種・六十一作品、「花咲爺」十六種二十四作品について、原本の閲覧または原本の写真版によって記載事項の確認を行った。調査の結果、目録には赤本『枯木に花さかせ親仁』の版本に京大本とあるものが、複製本であること、黄表紙『古昔花咲勢祖父』の版本所蔵者として記載のあった東博では、そのような書名の作品を所蔵していないこと、また、目録に記載はないが黄表紙『桃太郎一代記』の版本に松浦資料博物館本があることなど、目録記載事項を修正すべき点があった。「花咲爺」の諸本については日本昔話学会で発表し、その内容を論文「江戸期昔話絵本『花咲爺』の諸本」にまとめた。「桃太郎」については作品数が多く、諸本の調査結果については順次明らかにする予定であるが、今年度は合巻『赤本再興桃太郎』の書誌・翻字と解説を発表した(黄表紙『桃太郎一代記』は平成9年6月刊行を予定)。本文・絵柄の検討は、特にまだ研究が進められていない合巻体裁絵本三作品『桃太郎』『桃太郎一代記』『昔噺桃太郎』について行った。その結果、出生の場面の描かれ方については、爺婆が桃を食べて若やぐことは三作品全てに共通するが、初期の赤本に見られた「婆が若やいで男児を出産するのは『昔噺桃太郎』のみで、他二作品は桃の中から生まれていることや、拾った桃の食べ方や保存場所など、作品ごとに相違が見られ、それらが作品の趣向になっていることが判明した。桃太郎像についても赤本では神格化した存在として描かれていたが、合巻では心情や性格を表すような詞書や会話が付加され、各作品ごとに桃太郎の人物造形が具象化されていることが明らかになった。