著者
趙 星銀
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.49-68, 2020-10-31

戦後日本の言説空間の中で展開されてきた「世代」をめぐる議論は思想史研究において様々な角度から検討されている。だが各世代の特質や主張に対する分析から一歩離れて,とりわけ戦後初期の言説空間において「世代」が社会理解の道具として注目された理由についての研究はまだ不十分である。本稿は1950年代を中心に,「戦前派」「戦中派」「戦後派」といった「世代」の名の下で展開された議論の相互作用を分析しながら,世代論が活発化した要因を当時の政治思想における課題と関連付けて検討する。具体的には,敗戦による既存の価値体系の崩壊を背景に,「個人」と「国家」との関係を再構築していく試みの中で,「私」と「国民」との間の溝を埋めるものとして世代的な共同性が自覚され,歴史と政治を語る際の説得力ある主語として注目されていく過程を分析する。