著者
趙 星銀
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.49-68, 2020-10-31

戦後日本の言説空間の中で展開されてきた「世代」をめぐる議論は思想史研究において様々な角度から検討されている。だが各世代の特質や主張に対する分析から一歩離れて,とりわけ戦後初期の言説空間において「世代」が社会理解の道具として注目された理由についての研究はまだ不十分である。本稿は1950年代を中心に,「戦前派」「戦中派」「戦後派」といった「世代」の名の下で展開された議論の相互作用を分析しながら,世代論が活発化した要因を当時の政治思想における課題と関連付けて検討する。具体的には,敗戦による既存の価値体系の崩壊を背景に,「個人」と「国家」との関係を再構築していく試みの中で,「私」と「国民」との間の溝を埋めるものとして世代的な共同性が自覚され,歴史と政治を語る際の説得力ある主語として注目されていく過程を分析する。
著者
リー サンベック
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.29-60, 2019-03-31

本稿ではまず幾つかの代表的なステーブルコイン(法定通貨へのペッグを掲げる暗号通貨)の仕組みと問題点を検証し,次に,その検証を踏まえた代案を提示する。その代案とは,ユーザーの資金を預かった発行体が資金を FX 取引で買い・売りポジションのポートフォリオに換え,それを担保にした暗号通貨を発行するというものである。それは次のメリットを持つ。①FX 取引は差金決済で行われるため,担保を用意するコストが低い。②ポートフォリオの担保価値を反映してその暗号通貨の価値が増減するため,担保と暗号通貨の交換性が保たれる。③低リスクのポートフォリオを担保にした場合は暗号通貨のボラティリティが低い。④高リスクのポートフォリオを担保にした場合は暗号通貨が魅力的な投資対象になり得る。⑤ポジションを決済せずにそれと同額の暗号通貨を決済手段に使える。⑥FX 取引を利用するため,金融商品取引法などの適用によりカウンターパーティーリスクが下がる。⑦経済政策の負の効果を軽減する。
著者
岩村 英之 李 嬋娟
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-24, 2020-10-31

本稿の目的は,異なる入学区分の学生の学修成果の違い,およびその背後にある学修能力の違いを検証することである。一般に,学力型入試と非学力型入試とでは選抜基準が異なるため,入学する学生の能力が異なる可能性が指摘され,それが入学後の学修成果にも影響する可能性が議論されてきた。本稿では,1996年4月から2015年4月までに明治学院大学国際学部国際学科に入学した学生の成績データを用い,入学区分と学修成果の関係を検証する。結果として,入学区分と入学後の学修成果の間に一定の関係が確認された。さらに,2014年4月の入学生については中学・高校時代の成績や学内外活動に関するサーベイ調査を実施し,中高での成績や課外活動が入学区分と関係する可能性,さらに大学での学修成果と関係する可能性を議論した。本論文の貢献は,入学区分と学修成果の関係を検討する際に時系列の傾向を確認することの重要性を示したことと,区分間の定員配分の変化が学生の学修能力に影響する可能性をデータ分析に基づき示したことである。
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.91-109, 2015-10-31

豊かさを測るため,これまで経済的尺度(経済成長率や一人あたりGDP)が重視されたが,近年その不十分さが強く意識されるに伴って「幸福」についての関心が上昇し,関連研究も増加している。本稿は,経済学的視点のほか,思想史,倫理学,心理学,脳科学などの知見も取り入れながら考察した試論であり,概略次の主張をしている:(1)幸福を考える場合,その深さや継続性に着目しつつ(a)気持ち良い生活(pleasant life),(b)良い生活(good life),(c)意義深い人生(meaningful life; eudaimonia)の3つに区分するのが適当である。(2)このうち(c)を支える要素として自律性,自信,積極性,人間の絆,人生の目的意識が重要であり,これらは徳倫理(virtue ethics)に相当程度関連している。(3)今後の公共政策運営においては,上記(a)にとどまらず(b)や(c)に関連する要素も考慮に入れる必要性と余地がある一方,人間のこれらの側面を高めようとする一つの新しい思想もみられ最近注目されている。(4)幸福とは何かについての探求は,幅広い学際的研究が不可欠であり今後その展開が期待される。
著者
孫 占坤
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.49, pp.143-148, 2016-03

【書評/Book Review】
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.21-40, 2017-10-31

現在の主流派経済学は、人間の行動に関して比較的単純な前提(利己主義的かつ合理的に行動する人間像)を置き、そうした個人や企業によって構成される市場のメカニズムとその帰結を分析の基本としてきた。しかし、多くの学問分野の研究によれば、人間は単に利己主義的な存在であるだけでなく利他主義的動機も併せ持つほか、モノの豊富さ追求以外にも多様な行動動機を持つことが明らかになっている。このため、経済学においては人間の行動動機を再検討する必要がある。また経済学の究極的な目的が個人の「幸福」と「より良い社会」の構築にあるとすれば、市場メカニズム以外にも、個人の行動がより良い社会を導くといった思想の探究もその射程に入る。本稿では、そのような問題意識に基づいて刊行した近刊書籍(岡部 2017a)の要点を紹介した。そして(1)人間にとって持続性のある深い幸福は単に消費増大というよりも人間の能動的側面(自律性、絆、人生の目的意識等)に関わっている、(2)社会の基本的枠組みの理解においては従来の二部門(市場・政府)モデルでなく上記(1)の延長線上に位置づけられる三部門(市場・政府・NPO)モデルに依る必要がある(後者の優位性は経済政策論の観点から理論的に示せる)、(3)個人の幸福追求と社会改革を一体化する一つの現代的な実践哲学が存在感を高めており今後その動向が注目される、などを主張した。
著者
阿満 利麿 AMA Toshimaro
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院論叢国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.29-34, 1992-03-31

共同研究報告(1987-1990年度)『戦後日本の社会変動の研究―「高度成長」を鍵概念に―』COLLECTIVE RESEARCH (1987-1990): Social Changes in Post-War Japan: "High-Growth" as a Key Concept
著者
岩村 英之
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.48, pp.63-75, 2015-10

通貨同盟と財政連邦制をとる国家とは、単一の金融政策と複数の財政政策の組み合わせという点で類似している。そのため、欧州通貨統合の初期段階より、財政連邦国家のパフォーマンスにユーロの未来を投影し、また通貨同盟各国が満たさなければならない条件を導出することが試みられてきた。特に近年では、南欧諸国の政府債務問題を契機に、財政の分権化が地方政府の財政規律に与える影響に焦点が当てられている。本稿では、最初に分権化が財政規律に及ぼす影響についての理論的な議論を整理し、分権化は複数の異なるメカニズムを通じて正負両方の効果を持ち得るため、最終的な効果はすぐれて実証的な問題であることを確認する。そして、いくつかの代表的な実証研究を引きつつ、実証分析の結果を分ける3つの構成要素-(1)財政の分権化の数値化、(2)財政規律の数値化、(3)分権化と財政規律の関係の特定化-を抽出する。最後に、この3つの要素の観点から最近の実証研究の傾向をまとめ、分権化の効果についてはいまだ決定的な実証結果が提示されていないことを確認し、今後の方向性を示唆する。【研究メモ/Research Memoranda】
著者
リー サンベック
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.25-47, 2015-10-31

日本の為替政策に関しては多くの先行研究があるが、70 年代半ばから後半までの期間を包括的に分析した先行研究は比較的少ない。そのため当該期間における為替市場と為替政策に関する全体的な流れを把握するのが容易ではない状況にある。本稿では、まずこの時期の展開を時系列に沿ってなるべく前後隙間なく理解できるように、先行研究を参考にしながら、その他の学術論文、政府刊行物、当時の新聞や経済雑誌の記事、回顧録を幅広く活用した。そしてその過程で、変動相場制と為替介入をめぐる当局者含む専門家達の認識が如何に変化し、その変化の要因が何であったのかを探った。結果、アメリカを筆頭とする海外からの圧力、保護主義台頭と市場開放への恐れ、投機資本による市場圧力、そして「国際金融のトリレンマ」による金融・為替政策上の制約が大きく作用したことを明らかにした。