著者
趙 麗明
出版者
北海道大学大学院農学研究院
雑誌
北海道大学大学院農学研究院邦文紀要 (ISSN:18818064)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.45-78, 2013

以上の各章では本研究の中心課題である中国地方都市における農産物卸売市場を中心とする野菜流通構造の形成過程の解明に向けて,以下の内容を確認,解明した。II. 「中国における野菜生産流通の地域的特徴と分析事例」では中国における野菜生産流通の特徴を整理し,分析事例であるフフホト市の位置づけを確認した。内陸部の野菜生産量は全国の29%と少なく,年間野菜消費量の35%を沿海部から調達している。分析事例であるフフホト市の年間野菜消費量に占める域内野菜の割合は20%であり,内陸部の中でも野菜生産停滞が深刻で,域外野菜への依存度が比較的高い地域である。III. 「フフホト市の野菜流通における農産物卸売市場の役割拡大」では分析事例地域であるフフホト市都市部における野菜流通量の75%を占めるトンガヨ卸売市場の特徴を解明した。すなわち,トンガヨ卸売市場は従来の地場流通市場から広域流通市場に性格変化した。他方,トンガヨ卸売市場は需要量が多く,売り手を見つけやすいという理由からフフホト市における野菜生産農家の主な出荷先農産物卸売市場となっている。IV. 「野菜流通の大量化,全国的広域化に伴う農産物卸売市場の性格変化」ではトンガヨ卸売市場経営者の市場行動分析を通じて,トンガヨ卸売市場における域外野菜売場面積の安定的確保(拡大)・域内野菜売場面積縮小の実態を解明した。トンガヨ卸売市場経営者は野菜取引量の最大化を目的として,大規模な卸売専業業者の営業が展開しやすいように,野菜売場整備を行った。その結果,大規模な卸売専業業者を通じて搬入される域外野菜の売場が安定的に確保され,販売農家と小規模な卸売専業業者を通じて搬入される域内野菜の売場が縮小した。V. 「卸売専業業者による野菜卸売市場流通の大量化,全国的広域化の展開」ではトンガヨ卸売市場における野菜卸売専業業者の商品調達行動分析を通じて,卸売専業業者の商品調達先が従来の域内産地から沿海部を中心とする域外産地や産地卸売市場,或いは全国から出荷品が集まる大都市の集散地卸売市場に切り替わったことを解明した。すなわち,域内産地の生産量が少なく,規模拡大した卸売専業業者の仕入需要を満たさなくなったため,卸売専業業者は生産力の高い沿海部の野菜産地や産地卸売市場,或いは全国から出荷品が集まる大都市の集散地卸売市場からの調達に切り替えた。VI. 「大規模小売業者による域外野菜の需要,割合拡大」ではフフホト市における野菜小売業者の商品調達行動分析を通じて,域内野菜と域外野菜の需要動向の実態を解明した。つまり,域内野菜は単価が安く,鮮度もよいという理由から小規模小売業者が優先的に調達している。これに対し,域外野菜は単価が高いものの,大きさや形など規格化がよく,大規模小売業者の仕入需要を最も満たしている。このため,大規模小売店舗の増加につれて,野菜小売流通に占める域外野菜の割合が拡大している。