著者
辛島 裕士
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.308-317, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
39

transient receptor potential(TRP)チャネルは,さまざまな部位に発現し,多岐にわたる生体機能に関与する.そのうち,一次求心性侵害受容線維終末に発現が多くみられるTRPA1は,痛みに関係するチャネルとして研究が進んでいる.TRPA1は,多様な外因性の刺激物質によって活性化されて急性痛を起こすだけでなく,炎症に関与する内因性物質によっても活性化される.さらに炎症時には発現量の増加や,細胞表面への移動がみられることより,TRPA1は炎症性疼痛にも大きく関与する可能性が考えられている.TRPA1チャネル活性化による炎症性疼痛の増強は,臨床でよく用いられている麻酔薬でも認められることが報告されており留意する必要がある.最近,TRPA1の発現は,一次求心性線維の末梢側だけでなく中枢側にもみられ,中枢側でのTRPA1チャネル活性化は発痛ではなく,逆に鎮痛となる可能性が示された.このことも考慮に入れたうえで,TRPA1をターゲットにした鎮痛薬創薬に期待したい.