著者
岩元 辰篤 白井 達 森本 昌宏 岩崎 昌平 南 奈穂子 中尾 慎一
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.559-562, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
10

プレガバリン(PGB)を長期間継続投与中で,治療効果が不明瞭な症例において,投与中止が可能であるかにつき調査した.PGBを6カ月以上投与している11症例を対象とし,続行によってもさらなる改善がないと判断した場合,受診ごとに投与量を半減し,痛みが増強した場合には元の投与量に戻すこととして,25 mg/日まで減量が可能となった時点で中止とした.この結果,7例では減量後も痛みの程度に変化はなく中止が可能であったが,4例では減量あるいは中止により痛みが増強したために投与を継続した.以上,治療効果判定が不十分なままPGBを漫然と投与している症例があることが判明した.今後は,長期間投与を行っている症例では,漸減・中止を考慮すべきと考えられた.
著者
秋元 望 本多 健治 松本 恵理子 川田 哲史 右田 啓介 牛島 悠一 高野 行夫
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.478-484, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:神経障害痛の発症機序にミクログリア細胞の関与が示唆されている.ミクログリア細胞の活性は抗生物質ミノサイクリンで抑制されることが報告されているので,神経障害痛発現に対するミノサイクリンの抑制効果を検討した.方法:神経障害痛モデルはマウスの坐骨神経を部分結紮し,作製した.痛みの強さはvon Frey フィラメント刺激に対する痛み様行動をスコア化し,評価した.脊髄グリア細胞の変化は,免疫組織染色法とウエスタンブロット法により検討した.結果:坐骨神経部分結紮後,結紮側で痛みスコアが上昇(アロディニア発現)し,脊髄ミクログリアの発現量が増加した.ミノサイクリンを結紮前(20 mg/kg)とその後7日間(20 mg/kg/日)の反復投与によりアロディニアの発症と脊髄ミクログリアの発現量が抑制された.ミノサイクリンを結紮3日後から7日間(20 mg/kg/日)の投与により,アロディニアの発現は一部抑制されたが,ミクログリアの発現量は抑制されなかった.結論:神経障害痛に対してミノサイクリンは有効であり,その作用機構に脊髄ミクログリア細胞の活性の抑制が一部関与することが示唆された.
著者
長谷川 丈 杉山 大介 熊坂 美紀子 菱沼 美和子 松尾 公美子 井出 壮一郎 田中 聡 鬼頭 剛
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.144-149, 2008-04-25
参考文献数
10
被引用文献数
7

「電流知覚閾値(患者が感じる最小電気刺激量)」と「痛み対応電流値(痛みと等価の電流量)」から「痛み度」を数値化する知覚・痛覚定量分析装置ペインビジョン<sup>TM</sup>が開発された.疼痛治療の評価におけるペインビジョンの有用性を,治療により疼痛が軽減した16症例(疼痛低下群)と疼痛が軽減しなかった9症例(疼痛不変群)の合計25症例で,視覚的アナログ疼痛スケール(VAS)で評価した痛みの程度(VAS値)との関係から検討した.疼痛低下群では,治療後にVAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に低下し,電流知覚閾値は有意に上昇した.疼痛不変群では,VAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に変化せず,電流知覚閾値は有意に低下した.VAS値と最も強い相関を示したのは痛み度であった.以上より,疼痛の治療前後にペインビジョンで評価することで,痛みという主観的な感覚の変化を,痛み度という数値の変化として表現できることが示された.
著者
福井 弥己郎 岩下 成人
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.469-477, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
39
被引用文献数
1

痛みは不快な感覚・情動を伴う主観的体験であり,そのとらえ方はヒトによって大きく異なることから,客観的評価を行うことが困難であった.近年,画像医学の技術進歩に伴い,ポジトロン放出断層撮影(PET),機能的磁気共鳴画像(fMRI),核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)をはじめとする機能的画像診断法が確立し,痛みの脳内機構に関してさまざまな知見が明らかにされている.また,機能的画像診断法のみならず,3D-MRIを応用したvoxel-based morphometry(VBM)によって脳内組織の容積を直接測定する形態学的画像診断法も確立されつつある.これらの研究から,慢性痛患者では痛みの認知面,情動面に関与する部位の神経化学的・解剖学的・機能的変化が深く関与していることが示唆されている.これらの画像診断法をもとに明らかにされてきた痛みに関するさまざまな研究とその成果について概説する.
著者
有川 智子 眞鍋 治彦 久米 克介 加藤 治子 武藤 官大 武藤 佑理
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.100-104, 2017 (Released:2017-07-03)
参考文献数
11

静脈穿刺による末梢神経障害は,時に痛みや感覚障害が長期に持続し,治療に難渋する.静脈穿刺に伴う末梢神経障害で受診した16例について,症例の背景,穿刺部位,症状,治療経過を診療記録より後ろ向きに検討した.対象は,女性14例,男性2例,21~79歳.穿刺部位は,肘皮静脈11例(正中5例,橈側4例,尺側2例),橈側皮静脈3例,前腕尺側静脈2例であり,初診時に14例が痛み,2例が違和感を訴えた.握力低下10例,アロディニア6例,冷覚鈍麻6例,腫脹3例,血腫2例があった.治療は薬物療法を13例,リドカイン点滴を8例,星状神経節ブロックを4例,持続硬膜外ブロックを2例で行った.転帰は軽快10例,治療中4例,転院2例であった.今回の調査では,静脈穿刺による末梢神経障害は報告が少ない肘部橈側静脈でも発生していた.末梢神経と静脈の走行と神経損傷の知識の普及が重要である一方,どの部位でも起こりうることから,末梢神経障害を疑った場合にはただちに抜針・止血し,早期より治療を開始するよう啓発する必要がある.
著者
滝本 佳予 西島 薫 森 梓 金 史信 小野 まゆ
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.8-11, 2016 (Released:2016-03-06)
参考文献数
13

全身の痛みを中心とする多彩な症状を訴え心因性多飲を合併する患者に対し,薬物療法・認知行動療法と併せて行った,患者の語りの傾聴と対話を重視した診療が有用であった1例を報告する.症例は68歳の女性,全身の痛みを訴えて当科を紹介受診した.併存合併症として心因性多飲による低ナトリウム血症と意識混濁,むずむず脚症候群,過敏性腸症候群,睡眠障害,失立失歩があり,ドクターショッピングを長年続けた後の受診であった.患者の語りの傾聴と対話により,まず心因性多飲が改善した.次いで痛みの訴えを線維筋痛症・中枢感作性症候群と診断し薬物療法・認知行動療法を実施したところ,ドクターショッピングをやめ症状も軽減した.“説明不能な”痛みの訴えはペインクリニックではたびたび遭遇する.器質的原因が明確ではない疾患の症状を一元的にとらえ,診断治療を行う役目を果たすためには,患者との語り合いにも問題解決への可能性があることが示唆された.
著者
廣瀬 宗孝 助永 憲比古 岡野 一郎 岡野 紫 中野 範 恒遠 剛示 棚田 大輔 佐藤 和美 乾 貴絵
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.507-515, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
43

慢性疼痛の発症とその持続には,中枢神経系の神経可塑性が重要であるが,血液における自然免疫の役割も注目されている.このため慢性疼痛の血液マーカーを見つける研究が行われており,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)もその候補の一つである.末梢神経が損傷されると,炎症誘発期では中枢神経系のBDNFは増加し,抗炎症期になると低下すると考えられている.中枢神経系のBDNFは血液中に漏出するため,このような中枢神経系におけるBDNFの変化は血液中のBDNF濃度に反映するとの考えがある.しかし,われわれが行った慢性腰痛症患者の臨床研究では,抗炎症反応が増加すると血液細胞のBDNF遺伝子におけるエピジェネティックな変化で血清BDNF値は低下することが明らかとなり,BDNF値の低下と痛み症状の数の増加に相関関係が認められた.慢性疼痛患者の血中BDNF濃度は,その時々の自然免疫状態など他の因子との関係も鑑みることで血液マーカーとなる可能性がある.
著者
杉浦 健之 徐 民恵 幸村 英文 平手 博之 藤田 義人 薊 隆文 伊藤 彰師 笹野 寛 祖父江 和哉
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.384-387, 2011 (Released:2011-10-10)
参考文献数
12

プラミペキソールの服用後に有痛性下肢運動障害疾患が軽快した症例を報告する.患者は60歳代の男性で,右膝関節の再置換術後から右足趾(第2~5)に痛みと不随意運動が発現した.足趾の痛みは,持続性で歩行時に増強していた.不随意運動は,安静時に足趾内転位を示すジストニアと,1-2 Hzの不規則な持続性の振戦であった.下肢遠位側の病変で,痛みと不随意運動を特徴とする“痛む脚と動く足趾症候群”を疑ったが,確定診断には至らず,有痛性運動障害疾患として取り扱った.仙骨硬膜外ブロックとプラミペキソールの内服後に,足趾の痛みと不随意運動は軽減した.プラミペキソールを増量後に,不随意運動はほぼ消失し,歩行が円滑にできるようになった.その後は,坐骨神経ブロックを隔週に行い,プラミペキソールの内服を継続している.下肢静止不能症候群の治療薬であるプラミペキソールは,本症例のような有痛性下肢運動障害疾患にも効果がある可能性がある.
著者
長谷川 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.301-307, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
27

炎症は,生体侵襲が加わった際に恒常性を維持するための,防御反応である.一方,痛みはさらなる侵襲を回避し治癒のために安静を促す,警告的な感覚である.炎症性疼痛は,炎症によって組織の侵害受容器が刺激を受けて生じる痛みであり,痛みの神経学的分類では侵害受容性疼痛に含まれる.術後早期の創部痛のほか,筋膜や筋・骨格,内臓の炎症など,しばしば原因の除去が困難な慢性炎症を背景とする病態に伴うことが多い.このように“長期化する痛み”という前提で鎮痛の着地点を模索する場合,炎症性疼痛へのアプローチは,生体防御に不可欠な炎症反応と鎮痛を両立させるという,相反する介入を繰り返すことといえる.NSAIDs,オピオイド,局所麻酔薬などの鎮痛薬は抗炎症・免疫抑制作用を有するものが多く,鎮痛目的で炎症を抑えてしまうことにより炎症・治癒過程が遷延し,逆に痛みが慢性化する可能性が示唆されている.炎症性疼痛に用いる麻酔・鎮痛薬の作用機序と,鎮痛以外の薬理作用に関する最近の知見から,痛み以外のアウトカムについて概説する.
著者
谷口 奈美 前田 愛子 冨永 昌周
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.534-537, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
12

原発性肢端紅痛症(primary erythromelalgia:PE)は,四肢末端の灼熱痛,発赤,皮膚温上昇を三徴とする難治性臨床症候群である.現状では確立した治療法はない.今回,PEの治療を経験したので報告する.症例は54歳,女性.10年前より温熱刺激による四肢末端の痛み,発赤,灼熱感を自覚するようになった.冷却により一時的に改善したが,痛み制御不良のため紹介受診となった.1日に20回程度の発作的な四肢末端の激しい痛みが出現し,睡眠障害を生じていた.自己免疫疾患,血液疾患は否定され,その症状からPEと診断した.治療は,星状神経節ブロックを施行し,症状の著明な改善がみられた.その後,α1アドレナリン受容体拮抗薬の内服を継続し,症状の改善を維持している.過去の文献から,PEは後根神経節,交感神経節やこれらの末梢神経のナトリウムチャネルの変異があると報告されている.この変異は痛みの感受性変化や血流障害を誘起し,また付随的な局所の発痛物質放出を招き,痛みを遷延化する可能性がある.本症例では交感神経遮断治療が奏効したことから,PEの病態に対する交感神経系の関与が示唆された.
著者
辛島 裕士
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.308-317, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
39

transient receptor potential(TRP)チャネルは,さまざまな部位に発現し,多岐にわたる生体機能に関与する.そのうち,一次求心性侵害受容線維終末に発現が多くみられるTRPA1は,痛みに関係するチャネルとして研究が進んでいる.TRPA1は,多様な外因性の刺激物質によって活性化されて急性痛を起こすだけでなく,炎症に関与する内因性物質によっても活性化される.さらに炎症時には発現量の増加や,細胞表面への移動がみられることより,TRPA1は炎症性疼痛にも大きく関与する可能性が考えられている.TRPA1チャネル活性化による炎症性疼痛の増強は,臨床でよく用いられている麻酔薬でも認められることが報告されており留意する必要がある.最近,TRPA1の発現は,一次求心性線維の末梢側だけでなく中枢側にもみられ,中枢側でのTRPA1チャネル活性化は発痛ではなく,逆に鎮痛となる可能性が示された.このことも考慮に入れたうえで,TRPA1をターゲットにした鎮痛薬創薬に期待したい.
著者
天野 玉記 精山 明敏 十一 元三
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-33, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
11
被引用文献数
1

治療に難渋しやすい慢性痛の1つに幻肢痛があり,その機序には痛みに関する記憶が関与すると推測されている.心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)に対する治療法の1つとして精神医療で用いられるようになった眼球運動による脱感作および再処理法(eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)は,トラウマ体験の記憶と感情の処理により症状を寛解させると考えられている.同様の技法が幻肢痛の治療(幻肢痛プロトコル)に試みられている.今回,腰椎椎間板ヘルニア手術時の事故で左下肢の麻痺が起こり,8年間激しい慢性痛があった70歳の女性にEMDRを実施し,痛みが著明に軽減した症例を報告する.本症例では,事故に関連した場面等を想起させた状態で,左右交互の眼球運動を繰り返しながら想起場面と関連した感情を鎮静化しつつ認知の修正を試みた.その結果,治療セッション中に痛みが軽減し,ほぼ消失した.治療から3カ月後にも痛みは再発していなかった.心因性の機序が関与した慢性痛に,EMDRの幻肢痛プロトコルが治療法の1つになりうることが示唆された.
著者
長谷川 丈 杉山 大介 熊坂 美紀子 菱沼 美和子 松尾 公美子 井出 壮一郎 田中 聡 鬼頭 剛
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.144-149, 2008-05-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
10
被引用文献数
3

「電流知覚閾値(患者が感じる最小電気刺激量)」と「痛み対応電流値(痛みと等価の電流量)」から「痛み度」を数値化する知覚・痛覚定量分析装置ペインビジョンTMが開発された.疼痛治療の評価におけるペインビジョンの有用性を,治療により疼痛が軽減した16症例(疼痛低下群)と疼痛が軽減しなかった9症例(疼痛不変群)の合計25症例で,視覚的アナログ疼痛スケール(VAS)で評価した痛みの程度(VAS値)との関係から検討した.疼痛低下群では,治療後にVAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に低下し,電流知覚閾値は有意に上昇した.疼痛不変群では,VAS値,痛み対応電流値,痛み度は有意に変化せず,電流知覚閾値は有意に低下した.VAS値と最も強い相関を示したのは痛み度であった.以上より,疼痛の治療前後にペインビジョンで評価することで,痛みという主観的な感覚の変化を,痛み度という数値の変化として表現できることが示された.
著者
住谷 昌彦 宮内 哲 前田 倫 四津 有人 大竹 祐子 山田 芳嗣
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-10, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
53
被引用文献数
3

四肢切断後に現れる幻肢痛をはじめとする神経障害性疼痛の発症には末梢神経系と脊髄での神経系の異常興奮とその可塑性に加え,大脳を中心とした中枢神経系の可塑性が関与していることが,最近の脳機能画像研究から確立しつつある.本稿では,幻肢痛を含む病的疼痛全般は脊髄よりも上位の中枢神経系に由来するというわれわれの持論から,まず幻肢の感覚表象について概説し,続いて幻肢の随意運動の中枢神経系における制御機構から「幻肢が中枢神経系にとって健常肢として存在すれば幻肢痛が寛解する」という仮説を提案する.この仮説を,われわれが行っている鏡を用いて幻肢の随意運動を獲得させることによる臨床治療(鏡療法)から検証し,鏡療法の有効性と限界,そして今後の幻肢痛および神経障害性疼痛に対する新規神経リハビリテーション治療の可能性について概説する.
著者
村田 久行
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-8, 2011 (Released:2011-02-04)
参考文献数
9
被引用文献数
2

緩和医療の臨床で生の無意味,無価値,空虚などの苦しみを訴える終末期がん患者のスピリチュアルペインを「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義して,それを人間存在の時間性,関係性,自律性の三次元から分析した.その結果,終末期がん患者のスピリチュアルペインを,将来の喪失(時間性),他者の喪失(関係性),自律性の喪失(自律性)から生じる苦痛であると解明し,この構造解明に基づきスピリチュアルケアの指針は,死をも超えた将来の回復,他者の回復,自律の回復にあることを示した.そして,終末期がん患者のスピリチュアルペインの緩和が患者の身体的苦痛の軽減に影響を与えることを示唆した.
著者
木下 真佐子 橋爪 圭司 渡邉 恵介 林 浩伸 古家 仁
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.475-481, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
22
被引用文献数
1

【目的】髄液漏出の検出にRI脳槽造影やCT脊髄造影が用いられるが,両者の直接比較はない.国際頭痛分類基準を満たす特発性低髄液圧性頭痛18症例で両検査の所見を比較した.【方法】対象は男/女=8/10,平均年齢41.7歳,特に誘因なく典型的な起立性頭痛を発症し,造影脳MRIにて全周性硬膜増強を認め,硬膜外自家血パッチで治癒し,特発性低髄液圧性頭痛と診断された.RI脳槽造影は腰椎穿刺してインジウム111を投与し経時的にカウントし,CT脊髄造影はイオヘキソール10 mlを髄腔内注入し全脊椎CTを撮影した.【結果】RI脳槽造影で間接所見(早期膀胱集積,上行遅延)は全症例でみられたが,直接所見(傍脊椎集積)は12症例(検出率67%)であった.CT脊髄造影では,傍脊椎集積を認めなかった6症例を含め全症例で造影剤の硬膜外貯留を認め,その部位は主に頸・胸椎であった.RI脳槽造影は,腰・仙椎の正常神経根鞘を検出した場合があった.【結論】CT脊髄造影による硬膜外貯留の証明は,現に今,漏出している髄液瘻の存在を意味する.典型的な髄液漏出の診断には,RI脳槽造影よりもCT脊髄造影が鋭敏であった.
著者
清水 雅子 田中 益司 野村 正剛 宮田 妙子 今中 宣依
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.511-514, 2014 (Released:2014-11-07)
参考文献数
12

64歳,女性.右肩関節骨折に対して保存的に加療された.画像上頸椎や肩関節に異常はないが,頸部,肩部,前胸部,背部など全身の広範囲に痛みが遷延し,非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) やプレガバリンは無効で当科を紹介受診した.血液検査の各種自己抗体は陰性で,アメリカリウマチ学会線維筋痛症分類基準を満たした.アミトリプチリンとコデインの内服で頸部から肩の痛みは軽減したが,前胸部と背部に中等度の痛みが持続した.同部位の痛みは肩の受傷以前から存在したことがわかり,右胸鎖関節部の軽度肥厚を確認した.X線,CT,MRIの骨肥厚像,骨シンチグラフィーのbull's head signからSAPHO症候群を診断した.アレンドロネートの内服を開始すると痛みは著明に低下し,線維筋痛症分類基準を満たさなくなった.初診4カ月後に足部に皮診が出現し,皮膚科で掌蹠膿疱症を診断された.本症例は初診時に皮膚症状がなく,痛みは広範で肩受傷との関連を疑われたが,詳細な診察と画像検査を行うことでSAPHO症候群を診断するに至り,薬物療法で症状の寛解を得た.
著者
光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.2-9, 2014 (Released:2014-03-12)
参考文献数
34

局所麻酔薬のアナフィラキシーの頻度は非常に少ないものの,発症すれば死に至ることもある.局所麻酔薬のアナフィラキシーについて,その機序と臨床症状を概観し,アナフィラキシーの治療を述べた.アレルギー反応では,遅延型アレルギー性皮膚炎が約80%と頻度は高く,アナフィラキシーは約1%程度とされている.局所麻酔薬使用時のアナフィラキシーは局所麻酔薬やバイアル瓶に含まれている保存薬,ラテックスが抗原となる.アナフィラキシーは迅速に診断し,治療をできるだけ早期に始めることが,治療を成功させる鍵であり,現在広く使用されている診断基準を示した.また,アナフィラキシー治療の第一選択薬は酸素,補液,アドレナリンである.局所麻酔薬使用時にアナフィラキシーが発症したときには,原因薬物の同定は臨床上必須のことである.局所麻酔薬を頻用するペインクリニック医師は,頻度が少ないといえどもアナフィラキシーの治療には習熟しておく必要がある.
著者
熱田 淳 渡邉 恵介 藤原 亜紀 篠原 こずえ 川口 昌彦 橋爪 圭司
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.529-533, 2016 (Released:2016-11-04)
参考文献数
5

脳脊髄液漏出症の診断において,CT myelography(CTM)の硬膜外造影剤貯留像は精度が高く有用であるが,漏出点を特定することはできない.今回,dynamic myelography(DM)を用いてCTMを行い,漏出点の検出を試みた.脳脊髄液漏出症疑いの4症例に対し,計5回のDMを用いたCTMを行った結果,5回のDMのうち3回では,造影剤がくも膜下腔から硬膜外腔に流出し始める部位を確認することができ,漏出点を特定しえた.他の2回では漏出点は特定できなかったが,漏出点の範囲を限定することが可能であった.脳脊髄液漏出症の漏出点検出にdynamic myelographyが有用である可能性がある.