- 著者
-
辻本 桜介
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, no.1, pp.70-77, 2022-04-01 (Released:2022-10-01)
- 参考文献数
- 9
先行研究において、古代語に間接疑問文は存在しないと考えられている。これに対し本稿では以下のことを指摘し、中古語の引用句「…と」が間接疑問文に相当する用法を持っていたことを示す。まず、「いつと」「誰と」のように不定語をトが直接承ける用例は少なくないが、現代語の「いついつ」「誰々」のように引用句内の一部を伏せる形(プレイスホルダー用法)が使われたものか、間接疑問文と同様に解すべきものかが曖昧である。これに対し「年ごろは世にやあらむと」のように肯否疑問文を含むもの、「いかで降れると」のように引用句末の活用語が不定語に呼応して連体形となるものは、引用元の文の一部を伏せるだけのプレイスホルダーが使われているとは考えにくく、間接疑問文と同様の解釈になりうる。また「…逃げにけり。いづちいぬらむともしらず。」のように引用句内の不定語以外の情報が述語の主体にとって既知である場合も間接疑問文と同様に解すのが自然である。