- 著者
-
近江 美保
- 出版者
- 日本平和学会
- 雑誌
- 平和研究 (ISSN:24361054)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, pp.27-56, 2021-08-26 (Released:2021-08-26)
- 参考文献数
- 60
COVID-19によるパンデミックとそれに対する対応は、ウイルスという人を選ばないはずのものが原因であるにもかかわらず、世界各地で女性に偏った影響をもたらしている。日本でも、DVなどの女性に対する暴力の増加、女性が多い対人サービス産業における雇用の減少、非正規雇用労働者の女性やシングルマザー家庭への影響、女性の自殺者の増加など、深刻な影響が生じている。女性が当然のこととして果たしてきた家庭内外でのケア労働など、エッセンシャル・ワークの担い手への負担増も、改めて認識されることとなった。しかし、これらはCOVID-19が新たに引き起こしたものではなく、ジェンダーなど既存の社会構造が表面化したものでもある。パンデミックのような「危機」の際には、構造的な問題は対策の対象外とされることが多いが、過去の事例では、そのために脆弱な状況にある女性たちがより大きな影響にさらされることが指摘されている。COVID-19 による影響の軽減には、目前の医学的,公衆衛生的,経済的,社会的課題への直接的(immediate)な対応とともに、ジェンダーやケア経済など、不可視化されてきた社会の構造的(structural)問題に意識的に取り組むことが不可欠である。ジェンダー化された社会構造を変革し、危機が発生した際にその影響をできる限り小さくとどめることのできるレジリエントな社会をつくることも、「パンデミック時代の平和の条件」のひとつであろう。