著者
近藤 まりあ
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.219-230, 2013-10-10

Jonathan Safran Foer の2 作目の長編小説であるExtremely Loud and IncrediblyClose(2005)では,2001年の同時多発テロで父親を亡くした9 歳の少年オスカーが語り手となる。この作品では,形式上のポストモダニスティックな仕掛けが目立つが,大きな主題として描かれていると考えられるのは父と子の関係と,同時多発テロであろう。本論では,ユダヤ系アメリカ人作家であるFoer と他のユダヤ系作家等を比較することにより,これらのテーマが作品でいかに機能しているかを考察する。父と子の関係はユダヤ系アメリカ人作家の伝統に連なるテーマだといえるが,この作品は同じくユダヤ系作家であるPaul Auster が自らの父親を描いたThe Invention of Solitude(1982)に,形式だけでなくテーマの深い部分をも負っているといえるだろう。同時多発テロに関しては,この事件そのものの歴史的特異性を強調するよりもむしろ,事件を相対化する視点が小説に導入されていることを確認する。