著者
酒井 伸也 近藤 春樹 高相 豊太郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.141-145, 1992-06-01

38歳の男性が1985年肺門,頸部,鼠径部リンパ節腫脹で入院。リンパ節,肝生検でサルコイドーシスと診断した。以後無治療で経過観察していたが,1990年発熱,貧血で再入院した。入院時検査所見ではRBC 142×10^4/μl, Hb 5.5g/dl, Retics. 17.2%, Plt 25.3×10^4/μl, WBC 5300/μl, Bilirubin 2.07mg/dl, LDH 1305IU/l, Haptoglobin 10mg/dl以下,Coombs試験が陽性であり,骨髄では赤芽球系が過形成だった。以上の所見より自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断し,60mg/dayのプレドニゾロン(以下プレ)治療を開始,貧血は漸次改善したが,満月様顔貌,ざ瘡,股関節の無菌性壊死などのプレの副作用が出現した。溶血の再発と上述の副作用を防ぐ目的でプレを減量し,400mg/dayのダナゾール(以下ダナ)を加え治療した。プレ減量にても溶血の進行が認められなかったので,両薬剤量を徐々に減量,最終的に1991年5月,プレ中止,ダナ50mg/dayでRBC, Hb, Ret.共に正常域にあり,プレの副作用も消失した。サルコイドーシスに合併したAIHAは稀であるが,基礎にある免疫学的異常が両疾患を引き起こすと考えられ,今後その機序の解明が待たれる。プレを長期使用せざるおえないようなAIHAに,その副作用を防ぐ意味でもダナ療法は有効と考えられるが,ダナのAIHAに対する作用機序も未だ十分解明されておらず,将来本症例のような貴重な症例の蓄積によって解決されるのが望まれる。