著者
迫 知輝
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.384, 2019 (Released:2021-10-30)

はじめに 肢体不自由児の日常生活上の問題点は、非常に複雑で多様である。その中でも排泄への介助は、介助者の身体・精神的負担が大きく家族からの訴えも多い。 本児は、母親の介助により自力排便を行えていたが、介助量増加により従来の介助方法は困難となり自力排便も困難となっていた。そのため、多職種共働で便座を作製し、自力排便の再獲得と介助量軽減に繋がったため、以下に報告する。 症例紹介 低酸素脳症による痙直型四肢麻痺の9歳男児。横地分類A1。姿勢の崩れに対して過敏で、全身的に突っ張り、呼吸状態が悪化する時がある。排便は、母親が本児の腹圧がかかるように介助座位で行っていた。約半年前から成長に伴う介助量増加から介助座位が困難になり、背臥位で徒手的に腹圧を掛け排便誘導していたが、排便時間は座位時の3倍の平均30分を要した。 特殊便座の作製の流れ 母親、福祉用具業者(以下、業者)、担当理学療法士(以下、PT)と便座作製の検討をする。PTと排便時の姿勢評価を行い、従来の母親の介助座位は本児にとって腹圧が掛かりやすい姿勢であったため、介助座位時の股関節屈曲角度と体幹前傾の程度を参考にした。左記に加えて体幹・頭頸部が安定して不快姿勢とならないように業者と相談して背面と座面をモールドタイプにして作成した。 結果 特殊便座に座ることで母親の介助無しに姿勢は保持され、徒手的に腹圧を掛けずに自力排便ができるようになった。排便時間は平均10分に短縮された。 考察 多職種と多くの協議を重ね、本児に合った特殊便座を作製することができたことで、児にとって腹圧がかかりやすく、肛門直腸角も改善され、自力排便が可能になったと考えられる。 今後、在宅生活を送る上で排泄介助の介助量軽減は、介助者の身体的・精神的負担の軽減させる上で重要であり、今回の取り組みではこれらの改善に寄与できたのではないかと考える。 申告すべきCOIはない。