著者
有働 武三 遠竹 恭子 市川 洋一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.493-501, 1980-12-01

黄色ブドウ球菌が高塩濃度下においても発育しうるという, いわゆる耐塩機構を有していることはよく知られている. しかしこの特性は, 例えばそのあらゆる細胞機能が高塩環境下に依存しているような,好塩菌(halophilic bacteria)とよばれるー群の細菌類が示す属性とは明らかに異なっている. その機構の本質は今日, 本菌の細胞膜を構築する脂質成分の変動にもとづく, いわゆるバリアーとしての膜機能の変化にあるものとされている. 本研究は黄色ブドウ球菌の菌体外酵素および毒素の合成・分泌と,本菌の耐塩機構との関係を解析することを目的として進められた. 膜機能として最もー般的な呼吸およびエネルギー転換系が, 本菌の菌体外ヌクレアーゼおよびα-溶血毒素産生におよぼす影響を, 各種阻害剤に対する動態から追求し, 既に知られた本菌の耐塩機構に関係した事実とともに解析を試みた. その結果, これらの菌体外タンパクの産生は, とくにその分泌の過程において本菌の呼吸機能と密接な関係にあること, またその合成はいずれもATP産生糸に依存しているが, それぞれの合成が構成的(ヌクレアーゼ)か誘導的(α一毒素)かという特徴によってエネルギー産生過程に対する依作性を異にしているように思われた. このことは耐塩性のみならず, 通性嫌気性菌(facultative anaerobe)としての本菌の生理機能を論ずる上に極めて與味深い現象といえる.