著者
鄭 君達
出版者
北海道大学宗教学インド哲学研究室
雑誌
北大宗教学年報 (ISSN:24343617)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-10, 2019-08-31

20世紀のフェミニズム研究は、男性中心主義というキーワードに焦点を当てた。そして宗教研究の領域でも、同じような潮流がみられる。当時、フェミニストの神学者たちは、各自の領域において様々な研究を行い、宗教あるいは宗教研究に潜在する男性中心主義の問題を暴きつつ、女性の権利と自由を求めるために多彩な研究成果を実現した。例えば、R.R.リューサー、E.シュスラー=フィオレンツア、R.グロスとJ.プラスコウのようなフェミニスト神学者たちは、自分たちが持つ宗教伝統を中心にして、そうした伝統を記述する聖典に隠された男性中心主義を分析した。そして、そうした聖典に埋めこまれた、女性を自由に導く啓示性を発見するよう、努力した。そのほか、C.P.クライストのようなフェミニストの神学者は、先史時代においての女神崇拝の研究に専心した。女神崇拝に関する問題は、今までの宗教研究において関心を集めた⼀つの重要なテーマであり、宗教研究における男性中心主義を検討するときに、その男性中心主義に潜在する暴力を暴けるかどうかを左右しうる重 要な議論でもある。したがって、今日のフェミニズムの議論にとって基礎になった20世紀の宗教研究を考察するときに、女神崇拝を検討する意義があると思われる。そこで、本稿では、フェミニスト神学者であるC.P.クライストの宗教研究における男性中心主義に隠された暴力について考察することによって、20世紀のフェミニズム研究の貢献を再考し、そうした議論が形成された原因と問題意識、さらにその限界を考察する。以下では、まず、生成期から20世紀までのフェミニズムの発展史をたどり、主に宗教研究の視点から議論の問題意識をここで可視化する。次に、20世紀のフェミニズム宗教研究における男性中心主義に対する批判に注目する。ここでは、男性中心主義という概念の形成と、本稿の中心になる研究者のクライストの研究を紹介したい。そして、クライストの議論を検討しつつ、その議論から見出された有効性と限界を検討する。