著者
吉谷 かおる
出版者
北海道大学宗教学インド哲学研究室
雑誌
北大宗教学年報 (ISSN:24343617)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.38-41, 2019-08-31

宗教とかかわる女性の課題に取り組む活動の一端を報告するため、日本聖公会というキリスト教の団体に所属し、フェミニスト神学を学ぶ者として、今日教会の現場で議論になっている「結婚」をどうとらえるかという問題を取り上げたい。私は聖職ではなく一信徒であるが、日本聖公会の管区女性に関する課題の担当者(女性デスク)と神学教理委員会委員を務めている。英国国教会の流れを汲む教会、Anglican Churchを日本では聖公会と呼ぶ。カンタベリー大主教のいるカンタベリーの主教座との交わりをもつゆるやかな繋がりの教会をAnglican Communion と呼び、世界におよそ160か国、40の管区がある。日本は日本で1管区をなし、国内は11の教区に分かれている。分類上プロテスタントであるが、典礼はローマ・カトリックと近いかたちで行われている。女性デスクのポストは、Anglican Consultative Council(全聖公会中央協議会)による各管区への要請を受けて、日本聖公会では2006年に設置された。そのタスクは、女性のエンパワメントを目的とすることの企画・運営と、国内・国外の女性団体との連絡・調整である。日本聖公会では20年前に法規が改定され、女性の司祭按手が実現されたが、いまでもそれに反対するグループが活動を続けている。そうした中で女性の権利を中心にジェンダーの平等が求められてきたが、しだいに多様な性のありかたが強く意識されるようになり、最近では性的少数者についての講演会や学習会を開きたいという信徒の要望も増えている。
著者
堀 雅彦
出版者
北海道大学宗教学インド哲学研究室
雑誌
北大宗教学年報 (ISSN:24343617)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.26-32, 2019-08-31

本稿は、2018年12月に東京大学で行われた研究会―「宗教学生成期における哲学の位置」―での発表をもとにしたものである。堀の発表は、ウィリアム・ジェイムズ(William James 1842-1910)の哲学的(かつ神学的)営みとしての「宗教の科学」に注目し、その対象と方法の側面から、彼が描き出そうとした「宗教」の姿の再構成を試みるものであった。後日の考察を加えて行った北大宗教学研究会(2019年2月18日)での報告内容も含めて、以下、その概要を研究ノートとして記す。
著者
鄭 君達
出版者
北海道大学宗教学インド哲学研究室
雑誌
北大宗教学年報 (ISSN:24343617)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-10, 2019-08-31

20世紀のフェミニズム研究は、男性中心主義というキーワードに焦点を当てた。そして宗教研究の領域でも、同じような潮流がみられる。当時、フェミニストの神学者たちは、各自の領域において様々な研究を行い、宗教あるいは宗教研究に潜在する男性中心主義の問題を暴きつつ、女性の権利と自由を求めるために多彩な研究成果を実現した。例えば、R.R.リューサー、E.シュスラー=フィオレンツア、R.グロスとJ.プラスコウのようなフェミニスト神学者たちは、自分たちが持つ宗教伝統を中心にして、そうした伝統を記述する聖典に隠された男性中心主義を分析した。そして、そうした聖典に埋めこまれた、女性を自由に導く啓示性を発見するよう、努力した。そのほか、C.P.クライストのようなフェミニストの神学者は、先史時代においての女神崇拝の研究に専心した。女神崇拝に関する問題は、今までの宗教研究において関心を集めた⼀つの重要なテーマであり、宗教研究における男性中心主義を検討するときに、その男性中心主義に潜在する暴力を暴けるかどうかを左右しうる重 要な議論でもある。したがって、今日のフェミニズムの議論にとって基礎になった20世紀の宗教研究を考察するときに、女神崇拝を検討する意義があると思われる。そこで、本稿では、フェミニスト神学者であるC.P.クライストの宗教研究における男性中心主義に隠された暴力について考察することによって、20世紀のフェミニズム研究の貢献を再考し、そうした議論が形成された原因と問題意識、さらにその限界を考察する。以下では、まず、生成期から20世紀までのフェミニズムの発展史をたどり、主に宗教研究の視点から議論の問題意識をここで可視化する。次に、20世紀のフェミニズム宗教研究における男性中心主義に対する批判に注目する。ここでは、男性中心主義という概念の形成と、本稿の中心になる研究者のクライストの研究を紹介したい。そして、クライストの議論を検討しつつ、その議論から見出された有効性と限界を検討する。