著者
二口 充 徐 結苟 井上 義之 高月 峰夫 津田 洋幸 酒々井 真澄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.O-31, 2012

タイヤのゴム補強剤やプリンターのトナーとして使用されているカーボンブラックは、IARCではGroup2Bに分類され、長期に吸入曝露した場合、ヒトに対する発がん性が示唆されている。我々は、 ナノ材料吸入曝露肺発がんリスク短期評価法を開発し、カーボンナノチューブなどの肺内噴霧による肺発がんのリスク評価を行っている。これに関連して本研究では、カーボンブラック(Printex90)の吸入曝露による肺発がん性を検索した。6週齢の雌雄のF344ラットにそれぞれ0.2%DHPNを2週間飲水投与した後、氷砂糖溶液に分散させたカーボンブラックを第4週から第24週まで1週間に1回の割合で肺内に噴霧した。1回の噴霧は500ug/mlの用量で、それぞれ0.5mlをマイクロスプレイヤーを用いて行った。第24週で屠殺剖検し肺を病理組織学的に検索したところ、雌雄いずれも肺内ではリンパ球、好中球など炎症細胞浸潤は軽度であった。カーボンブラックを貪食した肺胞マクロファージの集簇像が多数観察された。マクロファージ周囲の肺胞上皮細胞は腫大し、マクロファージの周囲を取り囲むように肺胞過形成様の病変が観察された。この病変は、DHPNで誘発された肺胞過形成、肺腺腫および肺腺がんとは別の部位に観察された。DHPNで誘発された病変の平均発生個数は、カーボンブラックの肺内噴霧により有意に上昇しなかった。マクロファージ周囲の肺胞過形成様病変の平均発生個数はDHPN誘発肺病変の発生個数よりも多かった。また肺胞過形成様病変の発生個数は、DHPNの処置に関わらずほぼ同数であった。これらの結果から、マクロファージの周囲に発生した肺胞過形成様病変が腫瘍性病変であるかどうかが、カーボンブラックの肺内噴霧による肺発がん性の評価に重要であることが示唆された。