著者
酒井 紅
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.55-58, 2018 (Released:2018-04-01)
参考文献数
4
被引用文献数
2

環境問題への意識の高まりから,木質バイオマスの有効活用が注目を集めており,その中でも特に近年,その応用展開が期待される素材として,セルロースナノファイバー(CNF)の研究が世界各国で活発になっている。一般的にCNFは,木質パルプに機械処理を加えることで得られるが,セルロース同士の強固な水素結合によって,機械処理のみで完全ナノ化(幅3-4nm)したCNFを得ることは困難であった。木質パルプから効率的にCNFを得る方法として,当社では機械処理の前に「リン酸エステル化」という前処理を行い,パルプ中のセルロース分子にリン酸基を導入し,水の浸透圧効果とイオンの静電的反発力の発現により,①微細化時のエネルギーの大幅削減,②ほぼ100%の収率で完全ナノ化可能,③高い透明性と粘性とを発現する,といった特徴を持つCNF水分散液を得ることに成功した。この水分散液は,汎用の天然系増粘剤と比較して透明性に優れ,かつ10倍以上の高粘度を持つため,工業用,化粧品用増粘剤としての利用を検討している。また,当社では他にも,パウダー状,シート状のCNFを開発しており,パウダーでは疎水化パウダーの開発による,塗料,インキ等新たな分野への応用,シートでは高透明性,高強度,熱安定性,フレキシブル性を生かした,フレキシブル電子基板材料やディスプレイ材料への利用が期待される。2016 年のCNF 分散液の実証設備導入を皮切りに,2017 年下期にはシートの実証設備も導入し,更に当社CNF の普及,事業化を加速していく考えである。