- 著者
-
重田 美和
増田 洋子
関口 由紀
畔越 陽子
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1327, 2014 (Released:2014-05-09)
【はじめに,目的】女性性機能障害(Female Sexual Dysfunction;以下FSD)は,第2回国際性医学国際会議により「性的欲求や興味の障害」,「性的興奮障害」,「オルガズム障害」,「ワギニスムス(腟痙攣)」,「性交疼痛障害」,「性嫌悪障害」に分類されており,その中でもワギニスムスと性交疼痛障害(以下性交痛)は苦痛が大きく,受診動機となりやすい。また,性機能障害は男性に比較し有意に女性に多く,性交痛は男性の4倍以上であることが報告されている(Laumann et al.1999)。ワギニスムスや性交痛の原因は,腟潤滑液の減少,腟の不随意収縮(骨盤底筋群のスパズム),骨盤底筋群のうっ血や慢性的緊張である。先行研究では,理学療法介入により性交痛を有する女性の71%で疼痛が半分以下に軽減,62%で性生活の改善,50%で全体的なQOLが向上したとの報告がある(D.Hartmann et al.2001)。当院の女性泌尿器科ではFSDの治療として理学療法が重要な役割を担っている。しかし,本邦ではFSDに対する理学療法は周知されていないのが現状である。そこで今回は,当院のFSD患者数の推移を調査することと,FSDに対する骨盤底トレーニング中心の理学療法効果について検討することを目的とした。【方法】2006年4月から2013年3月までの7年間に,当院女性泌尿器科を受診したFSD患者と骨盤底トレーニングを受けたFSD患者を対象に,患者数の推移をカルテから後ろ向きにデータ分析した。また,2011年4月から2013年3月の2年間に骨盤底トレーニングを受け,質問票に対する回答の同意と全項目回答を得られたFSD患者11名(平均年齢39.8±10.3歳)を対象に,①Female Sexual Function Index(以下FSFI)日本語版,②Visual Analog Scale(以下VAS),③骨盤底筋群筋力測定(Oxford Grading System:以下OS)④自由回答形式の質問票を初期評価と最終評価で実施,比較検討した。介入内容は,transvaginal palpation(経腟触診)または腟ダイレーター(腟挿入練習として使用する棒状のプラスチック製品器具で4段階の太さがある)を使用し性交痛に対する系統的脱感作療法,骨盤底のマッサージとストレッチング,骨盤底筋群の随意運動および協調運動の学習が主であり,これを月に1回のペースで施行した。また,次の来院までに自宅で行うトレーニングプログラムを指導した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の内容を十分に説明した上,同意が得られた者を対象とした。【結果】骨盤底トレーニングを受けたFSD患者は,1年目6人,2年目4人,3年目4人,4年目9人,5年目16人,6年目32人,7年目26人であった。FSFI合計点は指導前平均12.4±9.9,指導後平均23.3±5.9で,「性欲」,「性的興奮」,「腟潤滑」,「オルガズム」,「性的満足」,「性的疼痛」の6つ全てのドメインで初期評価に比較し最終評価では有意に高値(改善)を示した。疼痛評価のVASは指導前平均94.6±3.2,指導後平均41.8±25.0で,初期評価に比較し最終評価で有意に低値(改善)を示した。骨盤底筋群筋力評価のOSは指導前平均2.4±1.1,指導後平均3.8±0.7で,初期評価に比較し最終評価で有意に高値(筋力向上)を示した。自由回答形式による質問では,「精神的にも楽になった」などの意見が多数を占めた。【考察】FSDで受診する患者は年々増加傾向であるが,治療対象となることが十分に周知されているとは言い難く,潜在的FSD患者は多数存在することが推測される。今後積極的な情報提供が必要であると考える。性交痛とワギニスムスはFSDの各症状に影響を与えるとされており,これに対する理学療法介入がFSFI全てのドメインスコアに有意な改善をもたらしたと考えられる。骨盤底筋群の筋力および随意的コントロールが向上したことで筋弛緩効果をもたらし,性交痛の改善に繋がったと推察された。また,骨盤底トレーニングのみならず,問診での十分なカウンセリング,生活習慣の見直しや,自宅での系統的脱感作療法の指導などが性に対する恐怖の脱感作を導き,良好な結果に繋がったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨盤底トレーニングは,骨盤底機能不全によって女性に特異的に起る様々な症状が対象となり得るものであり,FSDに対しても有効な治療手段の1つであることが示唆された。今後本邦においても理学療法分野として発展させていく必要がある。