著者
野上 龍太郎 島田 達生
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-87, 2007-03-22 (Released:2010-09-09)
参考文献数
19

粘血便は潰瘍性大腸炎患者に見られる重要な症状の一つである。この症状は一般的に、大腸で粘液を分泌する杯細胞の増加や、粘液の分泌が亢進したためと推測されている。しかし一方で、潰瘍性大腸炎患者の大腸病変部位では、杯細胞の減少に伴い粘液の分泌量が減少するとの報告がある。この矛盾を解決するために、潰瘍性大腸炎患者直腸の肉眼的に炎症・潰瘍のないほぼ正常な部位と炎症・潰瘍が観察される部位から粘膜を生検にて採取し、糖質組織化学、走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡で検索し、比較検討した。ヒト直腸粘膜上皮の杯細胞は、酸性糖を同定するためのアルシアンブルー (pH.2.5) に対して、強い陽性反応を示し鳥炎症・潰瘍のない部位では、上皮と陰窩に特に多くの杯細胞がみられた。一方、炎症・潰瘍が見られる部位では、陰窩は浅く、陰窩の杯細胞は全体的に少なかった。しかし、粘膜自由表面では代償的に杯細胞の増加が顕著にみられた。さらに、増加した杯細胞の自由表面は著しく膨隆し、粘液の過剰分泌が伺われた。陰窩での杯細胞減少に対する、粘膜自由表面での代償性の増加と、粘液の過剰分泌に伴う激しい凹凸が粘血便発生の要因であることが示唆され、杯細胞減少と粘液便の両見解に矛盾が無いことが明らかになった。