著者
野原 慎二 阪本 留美 山下 陽子 小西 友誠 筒井 宏益 内賀嶋 英明 絹脇 悦生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.95, 2004

【目的】<br> 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)の目的として、いわゆる活動性の向上がある。しかしながら活動性の向上に伴い転倒リスクは上昇する傾向にあり、当院回復期リハ病棟においても、そのリスクマネジメントは重要な課題となった。そこで今回転倒・転落に対する具体的な取り組みを行い、若干の知見を得たので報告する。<br>【方法】<br> 平成15年12月に回復期リハ病棟において転倒・転落対策チーム(以下、対策チーム)を発足し、現在対策として行っている離床センサー・衝撃吸収パンツの使用に加え、以下の取り組みを行った。1)転倒・転落予防新聞、2)転倒・転落啓発ポスター、3)転倒・転落予防パンフレット、4)転倒・転落に関する勉強会の開催、5)ビジュアルボードの設置、6)終礼の開催。取り組み前後の比較検討は、平成15年8月から平成16年4月までの当院回復期リハ病棟の転倒率を用いて行った。統計処理はカイ2乗検定を用い危険率5%未満をもって有意とした。<br>【結果】<br> 転倒率において、取り組み前の平成15年8月は9.75%、9月14.28%、10月8.88%、11月8.69%、12月5.88%であったが、取り組み後の平成16年1月は4.25%、2月4.54%、3月4.65%、4月6.25%であり、取り組み前後の転倒率の低下において有意差は認められなかったが、低下傾向にある事は示唆された。<br>【考察】<br> 病院での転倒転落事故の発生要因として、1)患者側の要因、2)治療者側の要因、3)環境の要因に分けられる。そして実際の転倒・転落事故はこれらの要因が複雑に絡み合い発生する場合がほとんどである。当院回復期リハ病棟においても痴呆を有している患者の転倒・転落対策として離床センサー・衝撃吸収パンツを使用し一定の効果を得ていたが、今回の対策チーム発足にあたって転倒・転落事故状況を分析した結果、理解力が有り、移動・移乗動作が監視から自立レベルの患者においても転倒・転落事故の発生が多く認められ、その原因としては自分の移動・移乗動作能力への過信や介護者への遠慮等が認められた。その為、転倒・転落の危険性の認識を患者自身に促す目的において、予防新聞、啓発ポスター、予防パンフレットを作成した。転倒・転落予防新聞は、対策チームメンバーが持ち回りで作成し、月1回発行している。内容としては転倒・転落に関する話題を患者に分かりやすい言葉を用いて表現する事に気を付け、最終的な完成に至るには対策チーム以外の病棟スタッフの意見も取り入れていくようにしている。転倒・転落啓発ポスターは、トイレでの移乗が介助レベルであるにも関わらず、ナースコールを押さずに自分で移乗しようとして転倒した事例が多く、その対策の1つとして作成した。「ナースコールは座って押しましょう」と簡単に表記し、イラストも取り入れて、便器に座った際に患者がよく見える所に貼り、注意を喚起した。転倒・転落予防パンフレットは、入院生活で転倒・転落を起こしやすい主な原因を簡単な言葉とイラストを用いて説明したもので、対象者としては入院時の転倒・転落アセスメントスコアにおいて危険性が高いと判定された患者に対して配布している。運用手順としては、まず転倒・転落に関する自己チェックをしてもらい、患者とその家族の関心を転倒・転落へと向ける。その後転倒・転落予防パンフレットを配布し注意を促すとともに、先に行った自己チェック用紙は回収し、看護師はケアプランに活用するようにしている。これらの取り組みは当初患者側の要因に対して行ったものであったが、作成をしていく中で病棟スタッフの転倒・転落に関する発言がカンファレンス等で多く見られるようになり、相乗効果として病棟スタッフの転倒・転落に対する意識の向上があったように思われた。この病棟スタッフの意識を更に向上させる目的において、転倒・転落に関する勉強会を開催し、事例検討を行った。また、カンファレンスにおいて報告のあった転倒・転落の危険性の高い患者を病棟スタッフ全員が視覚的にも把握出来るようにビジュアルボードを設置し、報告者が随時変更していく事とした。転倒・転落の発生時間帯では夜間帯も多く、その原因としてスタッフの人数の問題もさる事ながら、夜勤スタッフは日中の患者の状態を詳細に把握する事が困難であり、特にリハスタッフとの情報交換が不充分であった事が考えられた。その為、主に夜勤スタッフに情報伝達を行うという目的で新たに終礼を開催し、病棟スケジュールの1つとして取り入れた。今回の調査において、取り組み前後の著名な転倒率の変化は認められなかった。しかし、先に述べたように、転倒・転落事故に対し積極的に取り組む過程において更なる問題意識をスタッフ全員で持てた事が、今回の最大の変化であると考える。