著者
野口 肇
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.48, 1966-04-01

1月29日づけの各紙朝刊は,軒なみに,天皇の第三皇女和子さんの夫君である鷹司平通氏が,自宅にすぐちかいマンションの一室で死んでいたとかきたてました.それぞれ「事故死」とか「変死」とのべているが,おなじ部屋で銀座のバー「いさり火」の前田さんというホステスが死んでおり,ガスストーブの栓があけはなしてあったとのことです.警察当局のしらべではどちらもお酒をそうとうのんでいて,死因は一酸化炭素の中毒,他殺のあとはないそうです.つまりひらたくいえば,よくあることだが,妻のある中年男がバーのホステスと合意の心中をしたのです.ふつうなら新聞はほんの数行だけ隅に報道するはずですが,なにしろ当事者が皇族のひとりというので大さわぎでした. いうまでもなく鷹司氏は元明治神宮宮司の長男,平安時代からつづいている五摂家の当主という純良な血統で,機関車の研究ではいくつも著書をもっている権威者,交通博物館につとめるまじめなサラリーマンです.同館長の意見ではたいへんまじめで,こうした心中事件などおもいもよらなかったと語っています.記憶をよびさませば,昭和25年5月,「民間人」として内親王を夫人にむかえたさいしょの人,当時やんやと祝福されたものです.趣味は古典音楽と切手の収集,バーあそびや女性関係などかりそめにもウワサにのぼらない模範的な紳士でした.