- 著者
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中澤 淳
山田 守
野間 隆文
伴 隆志
- 出版者
- 山口大学
- 雑誌
- 一般研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1990
神経・筋などの興奮性細胞において活動電位の発生に寄与するナトリウムチャネルについては、その一次構造が明らかにされてはいるが、チャネルブロツカ-としてのフグ毒(テトロドトキシン)のチャネル上の結合部位はまだ明らかにされていない。本研究ではフグ毒に耐性を示すフグ自身のナトリウムチャネルの解析によりその結合部位を推定する。トラフグの脳組織を材料として、λgt10ベクタ音引きを用いて、オリゴdtとランダム配列DNAをプライマ-として、2種類のcDNAライブラリ-を作製した。PCR法により作製したDNA断片ならびに分離したcDNAの断片をプロ-ブとして、合計9個のcDNAクロ-ンを得た。これらはいずれも単独ではmRNAの全長には及ばなかったが、配列をつなぎ合わせると全コ-ド領域をカバ-できた。えられたクロ-ンの塩基配列をもとにして分類すると、フグの脳には少なくとも3種のナトリウムチャネルが存在することがわかった。今回えられたフグ脳のナトリウムチャネルのアミノ酸配列を、ラット心臓、ラット器機筋、ヒト心臓のテトロドトキシン耐性チャネルならびにラット胞のテトロドトキシン感受性の3つのチャネルのアミノ酸配列と比較検討したところ、テトロドトキシン耐性のものでは、チャネルの4つの繰り返し領域の第1着目の領域中、セグメント5(IS5)とセグメント6(IS6)の間の部分に欠失が存在することがわかった。この部分は細胞外に突出していると考えられるところで、多数の糖鎖の修飾部位が存在する。単一アミノ酸残基の変化がテトロドキシン飽和性に寄与するという報告があったが、これらの残基はすべてフグのナトリウムチャネルでは、トキシン感受性のものと同じであった。従って、テトロドトキシン感受性を規定するのは単一アミノ酸残基というよりは、上述のようなIS5とIS6の間の領域の欠失ではないかと思われる。