著者
土屋 周二 大木 繁男 杉山 貢 西山 潔 福島 恒男
出版者
横浜市立大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

1.目的.直腸癌の手術後には排尿, 性機能障害が高率に発生するが癌の治療のためには不可避なものとされていた. 本研究は癌に対する治療効果を十分に得ながら手術に伴う機能障害を最小限にするため骨盤内自律神経を温存する手術術式を開発しその適応を明らかにすることを目的とする. 2.排尿及び男性性機能を支配する神経は下腹神経, 骨盤内臓神経と陰部神経である. われわれは下腹神経, 骨盤内臓神経, 骨盤神経叢及びこれからの分枝を直視下に確認して温存し直腸を切除する方法を工夫して開発した.1.直腸癌に対する自律神経温存手術の排尿機能検査. 自律神経温存手術を受けた直腸癌69例に尿力学的な検査を行った. その結果, 自律神経をすべて温存すると排尿障害はなかった. (0/29). また片側の第4前仙骨孔から出る骨盤内臓神経が温存されれば83.3%(5/6)に排尿機能が維持された.2.直腸癌に対する自律神経温存手術後の性機能. 65歳以下で術前に性機能障害のない53例に術後の性機能を調査した. 下腹神経, 骨盤内臓神経, 骨盤神経叢およびその分枝をすべて温存した症例では勃起障害11%, 射精障害21%であり拡大郭清例(n=29)の66%, 93%の障害と比較して明かに性機能の温存ができた.3.雑種成犬を用いた骨盤内自律神経温存及び損傷の程度と排尿機能との関係. 17頭の雄成犬を用いた. 神経非損傷時には尿管からCO_2を注入すると排尿反射がみられ, 完全排尿となった. 片側骨盤内臓神経切断時には不完全収縮ながら排尿反射がみられた. 両側切断時には排尿反射は認められなかった.4.直腸癌に対する自律神経温存手術症例の手術適応. 下腹神経, 骨盤内臓神経をすべて温存した104例の5年累積局所再発例は20.8%, 累積5年生存率は72.7%であり, 拡大郭清例より良好であった. 背景因子から分類して検討すると癌の占居部位, 深達度にかかわらずリンパ節転移のない症例には自律神経温存手術の適応としてよいと考えられた.
著者
木谷 照夫 水木 満佐央 田川 進一 倉垣 弘彦
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

慢性疲労症候群(CFS)は、その特異な病態から近年強い注目を集め、社会的にも関心の深い疾患である。本疾患の病因については様々な説が提唱されているが未だ明らかでない。我々は細胞のエネルギー供給の代謝系において極めて重要な役割をはたしているカルニチンを測定したところ、血中の遊離カルニチンは正常ながら、アシルカルニチン値が大部分の症例で有意に低下していることを見い出した。尿中排泄増加はなく、ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化を中心とした代謝系の何らかの異常が想定され、疲労を中心としたCFSの症状との関連が示唆された。また、カルニチン正常,アシルカルニチン低下という病態は現在までに数例の先天性異常例以外には知られておらず、検査法としての診断的意義も大きい。ともあれCFSでは生体代謝に関して生化学的に異常が見られたのは本物質が初めてである。これまでCFSで臨床検査異常や生化学的代謝物質の異常が見られないことより心因的機能的病態とする見解も少なくなかったが、我々の成績は器質的病変であることを強く示唆し、世界に大きなインパクトを与えた。本研究は、CFSにおけるアシルカルニチン減少のメカニズムを明らかにすることをめざすとともに、細胞レベルでのアシルカルニチンの作用やその代謝について下記の点について検討したものである。1)サイトカインとアシルカルニチンとの関連についてア)インターフェロンとの関連イ)TNFとの関連2)内在性アシルカルニチンの生理的意義についてア)絶食による変化イ)絶食後再節食による変化ウ)糖負荷による変化エ)糖負荷にともなうアシルカルニチンの動的変化の解析3)細胞内アシルカルニチンの測定4)治療の試み
著者
椙山 一典 岩崎 信 北村 正晴
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

原子力デ-タとしての中性子断面積は,新型炉や将来の核融合炉のみならずさまざまの広い応用分野に於て基礎的かつもっとも重要な物理量として位置づけられ,信頼性の高いデ-タが広い核種にわたって要求されている.近年原子力の基礎的分野の人員や予算不足のために,核デ-タ評価においてこの様な強い要求に答えることは困難になっている.今まで以上の国際協力のみならず革新的な技術の応用が必要である.本研究課題では中性子核デ-タの評価作業に対する支援システムを構築するための知識工学的手法導入の可能性について検討した.以下に研究成果をまとめる.1評価作業を分析した結果その作業は,個別手続き,デ-タベ-スと従来の評価用コ-ド群を結び付けるネットワ-クモデルで表現できる.その各ノ-ドは二つのタイプ:デ-タや属性の集まりとタスクにわけられ,それぞれオブジェクトとしてモデル化できる.2デ-タオブジェクトとしては評価の目標,基礎核特性デ-タ,核反応,反応断面積,核反応モデルとコ-ド,計算用モデルパラメ-タ断面積実験値等であり,3タスクオブジェクトとしては評価目標の設定,基礎核特性デ-タの準備,モデルコ-ドの選択,モデルパラメ-タの初期値選択,パラメ-タの調整,比較対象断面積の準備,計算値と実験値の比較判断,目標致達の判定等である.4オブジェクト間のやり取りはメッセ-ジ交換メカニズムを使う.5上記モデルの一部を32ビットワ-クステ-ション上にNEXPERT OBJECTによって実現した.6従来の理論モデルコ-ド移植し,各種の新しいデ-タベ-スを構築してシステムに組み込んだ,7オデジェクト指向モデルを採用した結果試験システムは理解性,拡張性,保守性の高いものとなり,本格システムの実現性を明かにした.
著者
木村 美恵子 横井 克彦 糸川 嘉則 増田 徹 平池 秀和
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

近年、免疫能の低下が問題である癌や感染症も栄養状態が大きく関与している可能性が指摘されるようになってきた。他方、必須微量栄養素の1つであるマグネシウムを欠乏させた動物では、著明な脾臓や胸線の肥大、リンパ球こ増加、カテコールアミンやセロトニンの代謝異常が認められることを明らかにしてきた。これまでのこれらの研究成果に注目し、今回は、マグネシウム栄養と免疫能の関連を明かにするため、免疫応答能に及ぼすマグネシウム欠乏の影響について検討した。マグネシウム欠乏飼料で1または2週間飼育したラット及び正常飼料で飼育した対照群ラットの脾細胞および腹くうマクロファージ(MΦ)を無菌的に採取し、脾細胞はマイトジェン(ConA,LPS)刺激による幼若化反応及びサイトカイン(IL-2,IL-3)活性、腹くうMΦはIL-1,IL-6活性を測定した。また、脾細胞からT細胞を分離して、MΦと混合培養して、それぞれの機能をさらに詳細に検討した。マグネシウム欠乏飼料で飼育したラットの脾細胞のConAにたいする幼若化能は正常飼料摂取群に比較して、著しく低下していた。LPSにたいする反応性はConAのような大きな変化は認められなかった。脾細胞のサイトカイン産生能は、ConA反応性の低下が認められたに関わらず、マグネシウム欠乏群のIL-2値がやや高値であった。MΦのサイトカイン産生能はIL-2,IL-6ともにマグネシウム欠乏群で高値の傾向があった。脾T細胞とMΦの相互作用では、T細胞自体はマグネシウム欠乏と対照群の間で差が認められなかったが、マグネシウム欠乏群のMΦはConAにたいする反応性を補助する能力が低下していた。以上、マグネシウム欠乏による免疫応答能低下の影響が確認された。
著者
吉田 奎介 白井 良夫 塚田 一博 川口 英弘
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

初年度と2年度にはMCPAとBOPの至適投与量に関する基礎的検討並びに農薬検出法の検討を行った。最終年度は、MCPAのBOP胆嚢発癌促進作用並びに胆石症患者胆汁中の農薬排泄の有無につき検討した。1. BOP長期投与によるハムスタ-胆道上皮の変化及びMCPA同時投与の影響: (1)BOP単独投与の効果;BOP20ppm含有水を摂取させ、20週で肝内に細胆管増生86.7%、異型上皮20.0%、肝外胆管に異型上皮6.7%、胆嚢に異型上皮6.7%の発生を認めた。(2)MCPA単独投与の効果:MCPA 4000ppm含有固形飼料摂取20週で肝内には細胆管増生を60.0%に認めたが、異型上皮の発現は認められなかった。(3)BOP,MCPA同時投与の効果:肝内には細胆管増生100%、異型上皮12.5%を認め、肝外胆管に上皮内癌6.3%、異型上皮31.3%を認めた。 小括:MCPA単独では胆道に異型上皮を誘発しなかったが、BOPによる異型上皮の発生を有意に(P〈0.05)促進し、少数ながら胆管癌の発生を誘発した。今回の実験では、胆嚢に異型上皮は発生しなかった。2.人胆汁中農薬の検出について: 人胆汁中にCNPが1pg/μ1、p,p'ーDDTO.8pg/μ1及びBHC(痕跡)が検出された。しかしMCPAは検出されなかった。〔結論〕MCPAは、BOPによる胆嚢の異型上皮の発生を促進しなかったが、胆管ではBOPによる異型上皮の発生を促進した。この結果より、MCPAは胆道上皮に対して発癌プロモ-タ-作用を持つ可能性が示唆された。人胆汁中では、MCPAは検出されなかった。今後、土中ならびに人体内でのMCPAの分解・代謝過程を明らかにし、MCPAならびにその代謝産物の胆汁中排泄の有無を確認したい。疫学上胆道癌死亡率と関連性有りとされたCNPが胆汁中に検出されたことより、その発癌作用についても検討する必要がある。使用禁止後長期経過した農薬が未だに人胆汁中に検出されたことから、体内残留農薬の発癌への影響についても検討が必要と考えられた。
著者
野村 大成 山本 修 石井 裕
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

放射線や、化学物質の遺伝的影響は、マウス特定座位法(100万マウス実験)に代表される如く、その検出に膨大な費用と施設を必要とし、現在ではその実施は不可能に近い。しかし、野村による“マウス催奇性突然変異"は、父または母マウスに放射線を照射し、正常マウスと交配すると次世代に奇形が誘発されることを発見したものであり、短期間に少数のマウスで異常を検出でき、しかも、ヒトに見られるのと同一の奇形が誘発された。以下に3年間の正果をまとめた。1.催奇性突然変異検出法の確立(化学物質での応用): X線のみならず、ENU、DMBA、4NQOを雄マウスに投与することにより、F_1に奇形は誘発された。しかも、X線による結果とは異り、ENUは精原細胞期の方が高感受性であった。特定座位法による結果と完全に一致した。2.機能異常(仮死)の検出法の確立: ENUおよびX線を雄マウスに作用させ、F_1胎児を妊娠18日目に帝王切開にて取り出し、人工蘇生を行った。蘇生不能児(仮死)がF_1に有意に高率に誘発され、その半数は形態学的奇形を伴っていなかった。3.誘発奇形の遺伝性: F_1に誘発される奇形の多くは致死的なものであった。生存可能な奇形のうち、小人症、曲尾は、次世代に低い浸透率ながら遺伝することが解った。4.精子授精能への障害: 微量の合成洗剤につけたヒトおよびマウス精子は、ハムスタ-卵に対し授精能力を失うことが解った。5.WHO勧告の作成: 野村による催奇性突然変異検出法を医薬品や環境有害物質の遺伝毒性検出法として用い得るか否か、平成2年4月、WHOにて討議し、加盟国への勧告文を作成した。6.将来への展望: 本検出法は、追試もなされ、確立された。今後はヒトでの疫学的調査と機能異常児の検出が重要である。
著者
今中 忠行 森川 正章
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

【1】HD-1株宿主-ベクター系の開発HD-1株を宿主とした形質転換系を構築することを目的としてまず、各種抗生物質に対する耐性をしらべた。その結果、カナマイシン(Km)、テトラサイクリン(Tc)、アンピシリン(Ap)、クロラムフェニコール(Cm)、カルベニシリン(Cd)に対する耐性は全くなく(5μg/ml以下)、ストレプトマイシン(Sm)に対しては10μg/mlが生育限界濃度であった。続いてこれまでに開発されたPseudomonas属を含むグラム陰性細菌に広く利用されている広宿主域ベクターや大腸菌用のベクターなどを中心にエレクトロポレーション法によるHD-1株の形質転換実験を行った。それぞれのベクターにコードされている各種薬剤耐性を獲得した細胞を形質転換体として選択した。その結果、グラム陰性用広宿主域ベクターRSF1010によってHD-1株の形質転換が可能であることが判った。細胞を懸濁する溶液としては10%グリセロールが適していると思われた。実際に、Sm耐性株(形質転換体)からプラスミドを抽出してアガロースゲル電気泳動で調べた結果、RSF1010の存在が確認できた。この結果は、RSF1010はHD-1株細胞内で独立複製可能であることも示している。種々の条件を検討した結果、HD-1株の形質転換最適条件は以下の通りである。宿主(HD-1株),定常期前期菌体:ベクター,RSF1010(Sm^r):選択圧,Sm20μg/ml:電気パルス(方形波):電界強度,5kV/cm:パルス幅,1ms:遺伝子発現までの培養時間,3時間。以上の条件で得られる最大形質転換頻度は3.3×10^<-5>transformants/viable cell、最大形質転換効率は1.1×10^5transformants/μgDNAであった。【2】アルカン/アルケン生合成経路の解明まず、生物学的にCO_2からアルカン/アルケンを合成する経路のなかで最も研究が遅れており、実際反応律速になっている可能性が高いと思われる脂肪酸からアルカン/アルケンへの変換反応について検討した。緑藻類などを用いた研究成果からは脂肪酸から直接アルカン/アルケンを合成しているのではなく、脂肪酸からアルデヒドになった後アルカン/アルケンに変換される可能性が示唆されている。そこでHD-1株が最も多く蓄積していたヘキサデカン(C16)の前駆物質であると予想されるパルミチン酸あるいはヘキサデカナ-ルを使ってアルカン/アルケンの生成が実際に起こるかを調べた。^<14>C-パルミチン酸は市販のものを利用した。^<14>C-MEKISAデカナ-ルは入手不可能であったため^<14>C-パルミチン酸から化学合成した。アルカン/アルケンの生成反応は以下のようにして行った。基質である^<14>-パルミチン酸あるいは^<14>C-ヘキサデカナ-ルを含むリン酸緩衝液(pH7.0)/1%Triton X-100をナスフラスコ内でArガス通気により脱酸素処理する。同様に脱酸素処理した細胞抽出液を嫌気性ボックス内で添加後密栓する。これを遮光した湯浴中で37℃24時間保温した。反応産物を含む疎水性画分をクロロホルム抽出し、基質のみで保温したコントロールと共にシリカゲル60TLC(ヘキサンおよびヘキサン,ジエチルエーテル,ギ酸)で展開し、脂肪酸あるいはアルデヒド画分(Rf=0.5-0.7)をアルカン/アルケン画分(Rf=0.9以上)を厳密に分けて回収した。液体シンチレーションカウンターによりそれぞれの放射活性を測定した。この結果から、微量であるが細胞抽出液を加えた場合にのみアルカン/アルケの生成が確認できた。さらに脂肪酸にくらべてアルデヒドの方がアルカン/アルケンの生成率が良いことから、細菌においても脂肪酸はアルデヒドを経由してアルカン/アルケンに変換されることが強く示唆された。現在細胞抽出液をカラムクロマトグラフィーなどにより分画して、本酵素活性(アルデヒトデカルボニラーゼ)の精製を目指している。
著者
前島 郁雄 鈴木 啓介 田上 善夫 岡 秀一 野上 道男 三上 岳彦
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本年度は、3年間の研究計画の最終年度であり、研究成果をまとめると以下の通りである。1.全国19地点の日記の天候記録をもとに、1771-1840年の70年間について、夏季4ケ月(6〜9月)の毎日の天候分布図を完成した。次に、北海道を除く全国を5つの地域に区分し、各地域毎に降雨の有無の判定を行なった。降雨の有無を1と0とで表現し、その組み合せから、全32タイプの天候分布型を設定して毎日の天候分布型の分類を行なった。その結果を天候分布型カレンダ-としてまとめた(成果報告書参照)。2.一方、現在の天候デ-タを用いて、上記と同様の方法で1975〜84年の10年間について、天候分布型の分類を行なった。気圧配置型については、吉野ほか(1967、1975、1985)による分類法を若干修正して用いることにした。各天候分布型に対応する日の気圧配置型を集計して、両者の対応関係を検討した。その結果、一つの天候分布型に対して必ずしも一義的に気圧配置型が対応しないことが明らかになった。3.最終的に、次の手順で気圧配置型の復元を試みることにした。(1)歴史時代の毎日の天候分布図を作成し、上述の方法で32通りの天候分布型に分類する。(2)現在の観測デ-タに基き作成した各天候分布型に対応する前線と高低気圧・台風中心位置の合成図を参考に、ワ-クシ-トを作成する。ワ-クシ-トには、想定される概略的な前線と高低気圧の中心位置を書き込む。この場合、連続性や高低気圧の移動速度等を考察する。(3)完成したワ-クシ-トをもとに、毎日の気圧配置性を吉野らによる分類法にしたがって復元する。本研究では、実際に1783年(天明の飢餓年)の6〜7月の気圧配置型の復元を試みた。
著者
蓮實 重彦 中地 義和 工藤 庸子 保苅 瑞穂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1960年代から今日に至るまで、フローベールは、もっとも刺激的な批評装置を生み出す源泉でありつづけた作家である。とりわけ近年飛躍的発展を遂げた草稿研究と生成論的アプローチの領域では、プルースト、ランボー、ゾラ等とならんで、実質的踏査と理論的探究の両面においてもっとも充実した成果を見せている。本研究は、(1)フランス国立図書館とルーアン市立図書館に統合されたフローベール草稿資料のうち、マイクロ・フィルムあるいはコピーの形で入手することが可能なものをすべて購入し、日本国内の資料センターとしての機能を果たすこと(2)パリのCNR(国立科学研究センター)の活動に呼応して、研究教育センターとしての活動にとり組むこと、以上2点を目標としたものである。科学研究費補助金の交付を受けた2年間に達成した具体的な成果のうち主なものは以下の通り。1.『ボヴァリー夫人』『感情教育』『ブヴァールとペキュシェ』のマイクロ・フィルムをすべてA3版にプリント・アウトし、ナンバーを打つ(必要なフォリオを適宜参照するにはこの形式の資料を備えておくことが必要不可欠である)。現在マイクロ・フィルムは存在せず、A4版コピーのみ入手可能な『聖アントワーヌの誘惑』『サラムボー』『三つ物語』の草稿資料を購入し、内容を検討し分類整理してナンバーを打つ。以上で資料センターとしての物理的条件はほぼ整った。2.3500枚に及ぶ『ボヴァリー夫人』草稿の表裏のすべての内容を検討し、決定稿の該当ページとの対応を一覧表に作成した。これは草稿研究の基礎作業として極めて価値あるものであり、すでにCNRの研究グループから注目されている。現在は、若手研究者の積極的な参加と協力を得て、未完の問題作である『ブヴァールとペキュシェ』草稿の資料分析をすすめており、今後も大きな成果が期待される次第である。
著者
谷村 弘 内山 和久 石本 喜和男 OCHIAI Minoru TUJI Takeshi IWAHASHI Makoto 岩橋 誠
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

炎症性腸疾患における食物繊維の意義は、いまだ未解決のままである。われわれは、その原因は、食物繊維の特性の違いを無視した検討がなされてきたためであると考える。そこで、特性のことなる2つの食物繊維(15%セルロースと10%フラクトオリゴ糖)と無繊維食、普通食をラット、デキストラン硫酸ナトリウム誘発潰瘍性大腸炎モデルに投与し、糞便中短鎖脂肪酸、腸内細菌叢、病理組織学的検討を行い、食物繊維の炎症予防効果、治癒促進効果について検討した。その結果、同じ食物繊維でもセルロースに代表される不溶性で、刺激性の強い食物繊維は、むしろ炎症を助長するが、フラクトオリゴ糖では、腸内細菌叢を早期に改善し、短鎖脂肪酸を増加させ、腸内環境をいちはやく改善し、炎症予防・治癒促進の両面の作用を有することが判明した。この理由としては、まず第一にフラクトオリゴ糖が水様性で、発酵性に富み、なかでもビフィズス菌に選択的に利用される特性からビフィズス菌優位の腸内細菌叢を作り出し、短鎖脂肪酸代謝を活性化するためであると考える。短鎖脂肪酸は、大腸粘膜細胞のエネルギー源であり、細胞回転率を高め、粘膜血流を増加させ、水分や電解質の吸収を調整し、腸管の蠕動運動を高める作用がある。このような作用が抗炎症的効果を産み出したものと考える。また臨床例においても、フラクトオリゴ糖10〜30g/日を投与した結果、腸内細菌の改善や短鎖脂肪酸の増加に有用であり、そのような症例では、便性の改善や臨床症状の改善が認めれ、新食物繊維としてのフラクトオリゴ糖の有用性が確認された。
著者
小澤 智生 糸魚川 淳二
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究の目的は,保存状態が極めて良い化石資料からDNAの抽出を試み,抽出されたDNAを基質としてPCRによって特定の遺伝子領域を増幅した後,塩基配列の決定を行い,近縁の現存種の遺伝子情報と比較し,生物の系統進化を明らかにすることにある.研究計画に示された内容について研究期間中に以下の成果を得た.1.化石骨などの化石資料からのDNAの抽出法,化石化の過程で低分子化したDNAを基質としてかつ生体高分子の続成過程で生じた多くの阻害物質を克服してPCR反応を効率的に進行させる方法といった実験手法の問題につき基礎研究を行い手法を確立した.2.ロシア科学アカデミーに所蔵されているシベリアの永久凍土産の5万3000年より10000年前のマンモス化石および現存種のアフリカゾウ・アジアゾウよりミトコンドリアDNAを抽出し,チトクロームb遺伝子領域307塩基対をはじめとした二三の遺伝子の領域の配列決定を行い,ゾウ亜科の分子系統樹を構築した.その結果,これまでの形態に基づく系統関係の通説と異なりマンモスはアフリカゾウにより近縁であることが明らかになった.また,分子時計によれば両者の分岐年代は約700万年前と推定される.なお,今回の4万3000年前のマンモス化石からのDNAの塩基配列決定は,コハク中の昆中化石を除き,現在のところ動物化石では最も古いDNAの抽出および塩基配列決定例である.3.化石記録の豊富な海生腹足類キサゴ類を対象に,現生種のミトコンドリアDNAのいくつかの遺伝子領域の塩基配列データに基づき分子系統樹を作成し,化石記録と形態に基づく系統樹と比較検討した計果,形態にもとづく系統樹は生態型を反映したものであり真の系統関係を反映していないことが判明した.また,キサゴ類の種分化は海洋気候の温暖期より寒冷期に集中して生じていることが判明した.
著者
三和 治 平岡 公一 松原 康雄 小林 捷哉 遠藤 興一 濱野 一郎
出版者
明治学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、高齢化社会の進行に伴ない今後、一層、必要とされるであろう在宅サービスを中心とする社会福祉供給システムにおいて、福祉行政機関とりわけ福祉事務所が、どのような組織機構をもち、またどのような運営方針の下に日常業務を遂行し、他の行政機関や民間社会福祉組織・団体などとどのように協力連携しているのか、また福祉事務所の現業員等の職員の専門性の水準がどの程度であり、その職員の行う援助活動にどのような問題があるのか、などを課題に、それらの状態、問題の把握と要因を実証的に調査研究し、それらへの対応に資することを目的に設定され実施された。わが国社会福祉行政機関の中核を占める福祉事務所の動向は、文献資料、現地調査によって、全体的に依然、社会福祉行政の重要部分を占めているものの、生活保護中心のもの、6法担当のものなどと多様化を示し、名称も同様に多様化している。専門性の指標としての社会福祉主事資格の取得率も停滞傾向を示している。所の運営方針も上級庁のそれによっている場合が多いように見られている。福祉事務所改革を行った岡山県、青森県、新潟県の各福祉事務所或いは福祉部門及び社会変動の激しい千葉県、市福祉事務所現業員を対象とした現業員の意識調査は、福祉事務所活動を現業員の立場からみようとしたものであるが、現業員の専門性に関わる意識、資格取得率に県、市による差が見られ、これらの関連性は今后の検討課題として残された。また福祉処遇についても県、地域による差があるが、それが現業員の状況に依拠するか、どうかは尚、慎重に例えば事例研究などを開いて検討したい課題である。福祉事務所改革は、積極的な意図、管轄地区の人変動などによる影響も少なくないなど単純ではない。それらは今後、他の地方自治体を対象として検証を要する課題としたい。
著者
清水 建美 植田 邦彦 山口 和男
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は高山植物を対象に、起源・伝播経路・分布パターンの成立過程といった生物地理学的課題をDNA情報を導入することによって解明し、DNA地理学に先鞭をつけることを目的としている。この種の研究では対象植物が常に大量に入手できるとは限らず、したがって少量の材料から効率よくDNAを抽出、増殖させる方法が求められる。まず、このような実験方法について研究、実施した。次いで、日本列島をはじめ世界各地から収集した高山植物、42種210試料について葉緑体DNAのtrnLとtrnFの遺伝子間領域、3種34試料についてtrnL遺伝子のイントロン領域の塩基配列を解析したところ、ハクサンチドリでは全分布域にわたって多型は認められず、アキノキリンソウ・コケモモ・ヤナギランなどの植物は、多型はあるものの地理的なまとまりは認められず、イワオウギ・イワツメクサ・ゴゼンタチバナ・ミヤマアズマギクなどでは北海道と本州の集団間にも多型はなく、また、ヒメクワガタやミヤマゼンコなどでは同一種内の変種間にも多型はなく、エゾウスユキソウとハヤチネウスユキソウでは異種間であっても多型は認められず、葉緑体DNAの変異の現れ方は分類群によりさまざまであることが判明した。一方、エゾコザクラ群およびヨツバシオガマ群においてはそれぞれ6および11の葉緑体DNA型が検出され、塩基配列の違いによって最節約樹を作成したところ、ともに広い分布範囲をもつ北方型、中部山岳群に細かく地域的に分化した南方型に大きくわけられるなど、生物地理学的に意義深い情報をうることができた。また、谷川岳でキタゴヨウマツ・ハッコウダゴヨウ・ハイマツの3集団間での遺伝子の動きを解析したところ、花粉はハイマツからキタゴヨウに供給されて浸透交雑が起こり、ハッコウダゴヨウが形成されることを見出した。
著者
間 宏
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、ブルーカラー労働者(以下ブルーカラーと略す)に関する歴史的研究は多数存在するが、ホワイトカラー労働者(以下ホワイトカラーと略す)の歴史的研究は著しく後れている現状にかんがみ、その空白部分を埋めることを主たる目的として実施された。そのため、地域的には関東周辺、中部地方、関西地方、北九州地方を、産業上は銀行、重化学工業及び鉱業を選び、それぞれに関係の深い経済団体、企業、労働組合及び個人について、所蔵資料の収集と面接調査を行った。その結果、今までに得られた知見は以下の通りである。1.ホワイトカラーは、ブルーカラーに比較して、企業への定着率が高いといわれているが、今回の調査研究の結果、必ずしもそうはいえず、ホワイトカラーかブルーカラーかというよりも、それぞれが所属している企業の盛衰によって決定的な影響を受けている。2.ホワイトカラーといっても、地域的な差が大きく、東京など大都市周辺の事業所に働くホワイトカラーは、中小都市(たとえば、日立市、豊田市)に働く人々よりも労働移動率が高い。また、同一企業でも、事業所ごとの差が大きく、大都市の本社に働く人々の方が、地方の事業所に働く人々より労働移動率が高い。3.産業別では、予想された通り、銀行のような第3次産業に働く人々の方が、重化学工業や鉱業に働く人々よりも労働移動率が低い。4.本研究の特徴であるライフ・スタイルの面でも、地域差、産業差、本社かそれ以外の事業所かによる差は大きい。本人の職位による差が大きいことはいうまでもない。戦前の場合、戦後とは著しく異なり、ホワイトカラーとブルーカラーとの違いは極めて顕著である。
著者
西中川 駿 松元 光春 本田 道輝
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

わが国の牛,馬の渡来時期とその経路を明らかにするために、遺跡から出土した牛,馬に関わる遺物を全国的に調査し、さらに牛,馬の出土骨、歯を肉眼的、計測学的に検索し、在来牛や在来馬のものと比較を行い、以下の結果を得た。1.牛,馬の骨や歯の出土調査は、各都道府県からの報告や文献ならびに現地調査によって行ったが、牛の出土は、全国で213カ所でみられ九州、関東が多く、馬は475カ所からの出土で、やはり関東が多い。また、時代別では、馬と共に中世が最も多く、ついで平安、古墳、奈良の順である。弥生以前のものも報告されているが、現在のところ東京都伊血子貝塚(弥生中期)の牛頭蓋骨が最も古く、確実な出土例である。2.出土骨の形態は、牛では在来牛である見島牛を口之島牛のものに似ており、また、馬では御崎馬やトカラ馬に類似し、推定体高は128cm前後で、中型馬に属するものが多いが、小型馬も含まれている。3.馬具の出土状況は、古墳時代を中心に調査したが、全国で1265カ所の遺跡から出土しており、地域別では九州の368カ所が最も多く、ついで関東、近畿、中国の順である。また、馬具は時期的には4〜5世期初頭に古墳の副葬品として出現し、5世紀代に分布が広がり、7世紀には古墳の減少と共に、その出土数も激減する。4.埴輪馬の出土は、全国で297カ所にみられるが、関東が圧倒的に多く、170カ所を占め、ついで近畿、九州であり、5世紀末頃から出現し、造形的に最も充実したのは6世紀である。祭祀に用いられたとみられる土馬は、奈良、平安時代に最も多く、全国589カ所のうち、328カ所が近畿地方で、特に平城京、平安京など古都に多い。以上の調査研究から、わが国の牛、馬は、弥生以降に朝鮮半島を経由して渡来し、当時の人々に飼養させていたことが示唆された。
著者
田阪 茂樹 佐々木 嘉三
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

地下千メートルの東京大学宇宙線研究所神岡地下観測所でラドンの連続観測を行っている。本研究の目的は、第1に大型タンク内の純水中に溶存しているラドン除去方法の確立と、第2に鉱内の断層湧水中のラドン濃度の変動による地震予知の基礎研究である。大型水タンクを用いた地下実験では純水中に溶け込んでいるラドンがニュートリノ検出の雑音となり、これを除去することがスーパーカミオカンデ実験における重要課題である。新たに水は通さないがラドンガスを通す機能性ガス分離膜を用いた水沈型水中ラドン検出器を開発した。この検出器を使用すると、地下水中の一万(Bgm^<-3>)の高ラドン濃度から、純水中の0.1(Bgm^<-3>)の低ラドン濃度の変化を長期間安定して測定することが可能で、カミオカンデの純水中のラドン濃度は0.5(Bgm^<-3>)という結果が得られた。また、カミオカンデのタンク内に存在する物質からのラドンの散逸率が測定された。これらの散逸率を用いてタンク内物質から放出されるタンク内のラドンの総量は83(Bg)と見積もられた。地震予知の基礎研究を目的として、鉱内の北20号断層近傍の2箇所からの湧水中のラドン濃度の変動を連続観測している。1993年7月29日に岐阜県中部でマグニチュード4.7の地震が発生した。ラドン濃度は7月19日頃から減少して、濃度が一番減少した時に地震が発生して、約25日間で元のレベルまで回復した。このような変化の様子は既に報告されている1991年2月28日の跡津川断層沿いのマグニチュード3.9の地震とかなりよく似ている。地下深部での地震予知を目的としたラドン観測は、気温・気圧・降雨などの環境要素の影響が極めて少なく、S/N比を上げるためにも大変に有効であることがわかった。またラドン観測用のワークステーション導入とシステム改良によって、遠隔地からでもラドン観測システムの監視とデータ解析ができる。
著者
大井 龍司 遠藤 尚文 中村 正孝 林 富 仁尾 正記
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

胆道閉鎖症初回根治手術時生検肝組織11例、同じく根治手術時摘出肝外胆管3例、肝十二指腸靭帯内リンパ節3例を対象として用いた。対照として地疾患で開腹生検を施行し肝私見切除を要した患児(神経芽細胞腫、小児肝癌等)の肝組織を用いた。まずレオ3型ビールスを培養し、それよりRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。次にレオ3型ビールスに特異的なprimerをcomputer解析により決定した。さらにこのprimerを用いてPCR法にて目的とするDNAを増幅し、その特異性を確認し、感受性について検討した。充分な特異性、感受性が得られたことを確認の後、上記方法を用いて本症患児より採取された対象組織につきレオ3型ビールスの検出を試みた。なお対照例についても上記と同様な操作を行なった。Primer1とPrimer2を用いたrepeated PCR法による胆道閉鎖症患児生検肝組織、肝外胆管ならびに肝十二指腸靭帯内リンパ節よりレオ3型ビールスRNA検出の結果は、Table1のごとく目的とする増幅反応物は検出されなかった。まとめると胆道閉鎖症患児の肝、肝外胆管、肝十二指腸靭帯内リンパ節を対象として、PCR法を用いてレオ3型ビールス核酸の検出を行なったが、上記対象いずれにもそれを検出することはできなかった。従って本症の病因としてレオ3型ビールス感染は否定的と思われる。
著者
吉川 弘之 小野里 雅彦 KUMAZAWA Masami
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

一般設計学は、多くの産業分野で行なわれている多様な設計に関して、その本質を明らかにし、またその際に共通に成立するモデルを樹立することを目的として、理論・実験の両面より研究する学問である。本研究は、それの理論的測面の展開を目的として行なわれた。本研究においては、まず、従来の一般設計学である位相幾何学を用いた数学的モデルの精緻化を行ない、各定義・定理間の整合性を高めた。さらに概念の位相の構成を考えることによって、知能の発達・学習のモデルをこのモデル上で考察できることが明らかとなった。また、現実の設計を説明するために、メタモデルという概念を導入し、それによって現実の設計過定のモデル化を行うことで、現実の設計過程との対応をとることが可能となった。このことにより、一般設計学の設計過程モデルをCADシステムの構築に際しての脂導原理として用いることができた。以上、本研究の成果を要約すると以下のようである。1.人間の概念を位相空間としてモデル化することが可能である。2.知能の発達,学習を含め、記憶,推論などが、知能の位相空間モデル上で記述可能である。3.概念に関する基本的な性質を公理として設定すると、公理から演繹される諸定理が現実の設計行為をよく説明する。4.位相空間上で記述された設計過程モデルは、そのまま設計を支援する情報処理技術法を生み出すものではないが、システム作成の指導原理として有効であることが確認された。今後の研究課題は、これら理論的な研究による知見を実験的な面からその正当性・有効性を立証することである。
著者
桐山 孝司 吉川 弘之 冨山 哲男 桐山 孝司
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究ではまず、機械設計の知識表現のためのオントロジーの分類を提案した。知識表現のオントロジーとは、現実世界に関する知識を特定の形式で記述するために、そもそもどのようなものが個体や物質として存在するかという捉え方や、そこで捉えた内容を表現するための語彙の集合を指す。機械に関する知識にはさまざまな見方や抽象化のレベルがあり、知識表現に必要なオントロジーも多岐にわたる。本研究ではオントロジーを、抽象化(現実世界と記述のための語彙との対応)、簡略化(抽象化された表現同士の間の簡略化の関係)、領域(力学、電磁気学など知識がカバーする範囲)、粒度(存在物を切り分ける大きさ)、範囲(世界の中から注目する部分を切り取る大きさ)の軸で分類した。次に本研究では、フィジカル・フィーチャー収集のためのツールを作成した。フィジカル・フィーチャーとは、機械設計に用いられる物理現象と、それを起こさせるのに必要な属性の組である。フィジカル・フィーチャーは機械の機能と構造とを関連づけるものとして、特に機械の概念設計段階の知識の表現に適する。本研究では機械の機能、挙動、構造を一般的に表現するシステムSYSFUND(System for Functional Design)を開発し、それを用いてフィジカル・フィーチャーを収集した。最後に本研究では、設計知識の共有化のためのデータベース環境を開発した。フィジカル・フィーチャーのデータベースは、対象とする物理現象の種類を増やすと大規模なものになり、個人のデータベースを超えた共有データベースの考え方が必要になる。本研究ではオブジェクト指向データベースを共有のためのデータベースとして用い、必要に応じて個人のデータベースにフィジカル・フィーチャーを取り込める環境を構築した。