著者
金子 命 原 ゆかり 保原 達
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-16, 2020-06-25 (Released:2020-07-14)
参考文献数
77

シカなどの大型動物は,生態系の地上部および地下部に様々な影響を与え得る。シカの生態系影響に関する研究は,主にシカの行動圏が制限されていない開放的な生態系において行われているが,閉鎖的な生態系において行われた例は非常に少ない。本研究では,閉鎖的な生態系でエゾシカが高密度化した洞爺湖中島において,シカが土壌および植物に与える影響を解明することを目的として研究を行った。島内に設置された6ヶ所の防鹿柵を使用し,土壌については物理性と化学性,植物については化学性を調べた。その結果,シカの侵入を排除した防鹿柵内に比べて柵外では,顕著に土壌硬度が高く,土壌表層のリター堆積量が少なかった。また,土壌の窒素諸特性については,植生タイプによって傾向が大きく異なり,特にシカの利用性の高い草原では柵内に比べ柵外で硝酸態窒素濃度が顕著に高かった。植物についても,草原の柵外に生育するフッキソウにおいて窒素濃度が顕著に高かった。これらのことから,閉鎖的な洞爺湖中島においてシカの高密度化によって、土壌の物理性や土壌および植物の化学性に様々な変化が生じており,そうした変化はシカの利用性や植生のタイプにより異なることが示唆された。中島では,シカの移動可能範囲が限られているため,高密度なシカの影響が島内全域的に顕在化し,それらの影響が長期間に渡って維持されている可能性があると考えられた。