- 著者
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金子 政彦
中村 誠寿
- 出版者
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会
- 雑誌
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.6, 2004
【はじめに】<BR> 当園では、1997年より地域療育等支援事業を行っており、施設機能を活用して在宅重症心身障害児(者)(以下在宅重症児者と略す)への療育、相談、指導を提供している。この中、作業療法士はリハビリテーションの実施のみならず、家屋改造や生活に即した各種福祉用具製作等に関わりを持っている。<BR>今回、当園の通園事業を利用していた進行性の疾患を持つ対象者について、経時的な状態低下から生活様式が変容し、これに必要な生活援助をその都度検討して作業療法アプローチを行ったので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 脊髄小脳変性症、精神発達遅滞、てんかんを基礎疾患にもつ19歳の女性。身長163cm、体重40kg。家族構成は父母と8歳上の姉(同疾患で、H医療センター入所中)。40週、体重3230gで出生し出生時異常なし。4歳時、痙攣発作、物につまづく、持っているものを落とすなどの症状により発症。5歳時、性格変化、社会的な不適応行動が見られるようになる。10歳時、S医大で検査入院の結果、脊髄小脳変性症の診断があり、身障手帳1級、療育手帳Aの交付を受ける。<BR>【作業療法評価】<BR> 頚座不安定で、自力での姿勢変換は困難。寝たきりであり、随意的な動きはほとんど無く、関節拘縮と非対称肢位での固定化が進んでいる。感情表出に乏しく、外部からの働きかけに対する反応がほとんどない。光に対して痙攣発作を起こす為、日中も遮光カーテンの中で過ごす。摂食機能も近年低下し、誤嚥性肺炎から胃ろうによる栄養管理となっている。日常生活活動はすべて全介助である。<BR>【経過及び作業療法アプローチ】<BR> 1995年(11歳):姉がH医療センター入院。通園が始まる。歩行困難となったため作業療法士による機能訓練を重点的に行う。また、当園の短期入所利用がある。<BR>1998年(14歳):つかまり立ちが困難となる。母の介護負担が増え、通園への出席が困難となる。地域支援事業に登録し、ボランティアによる外出時の付き添いが開始される。作業療法士による訓練は外来にて継続された。<BR>1999年(15歳):痙攣重積し、長期臥床が余儀なくされる。母の介護負担は一層増加し、来園困難となる。外来訓練が中止となるが機能訓練に対する家族の希望から、地域支援事業での訪問リハビリテーションが開始となる。<BR>2000年(16歳):養護高等学校訪問教育となる。家庭での良姿勢保持の為、室内用座位保持装置とトイレチェアを作製。母の介護負担、腰痛、膝痛が悪化し、介護の方法に関する相談がある。高さ可変式のギャッジベッドを導入する事で介護負担の軽減を図る。また、父が踵骨骨折し、父母で行っていた入浴介助が困難となる。浴室改造(居室から浴室までの段差解消と入浴リフト)とシャワーチェアの作製希望あり。地元の訪問看護にて入浴サービスが開始。年末に、浴室改造完了し、シャワーチェア納品。<BR>2001年(17歳)自力での姿勢変換困難となり、寝たきりの状態となる。摂食機能の低下が進み、誤嚥性肺炎を頻発、経鼻管栄養を経て、胃ろう造設術施行。自家用車が介護用のリフトカーになり、車に合わせる形で外出用(通院用)の座位保持装置を作製する。<BR>2002年(18歳):過労により、母が体調不良となる。短期入所サービスの利用がある。コーディネータと利用可能な社会資源の検討を行う。<BR>2003年(19歳):養護高等学校卒業。居住地であるN市の障害者支援センターから、訪問保育2回/月、訪問リハ2回/月、ホームヘルプ1回/週が開始となる。地元施設が支援事業を開始した為、高校卒業を機に、遠隔である当園のサービスを地元施設に移行する見直しを行い、訓練頻度を1回/月とする。<BR>【考察・まとめ】<BR> 今回、当症例に対して様々な作業療法を提供するに至ったが、進行性の疾患で機能低下が進む事、介護者が高齢化する事、取り巻く環境が整備されていない事など数多くの問題が相互に影響を及ぼし、在宅生活の遂行を妨げる要因となって表面化した。これに対して機能低下を緩徐にし、『出来るADL』維持に努めたが、目的達成には至らなかったように思われる。しかし、介護者の高齢化による負担増加や腰痛などの介護疾病に対して各福祉機器の導入や家屋改造あるいは訪問看護といった社会資源を活用することで在宅生活の維持につながったものと考える。この中、作業療法士は症例の身体機能に即した福祉用具の製作や浴室内リフターの導入に関わり、実際の介護をシミュレーションして介護負担の軽減に努めた。<BR> このように在宅重症児者とその家族が在宅生活を続けていく為には、施設の役割として各専門職において症例の生活全般の評価を共通認識し、長期的な予後予測をもとに、生活援助を行なう必要があると考える。また、施設機能として地域で可能となる他の社会資源に繋ぐ役割も特に重要と考える。