著者
金子 貞吉
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.67-103, 2018-10-10

本稿は,戦後日本経済の発展史をたどるために,どのように区分して,それをどのように特徴づけるか,考察することである。経済事象は連続しているので,それをただ時系列的に述べるのではなく,時期区分して,その特徴を明らかにしようとするものである。経済発展は,時期区分できるほど,きちんとした変動をみない。政策の転換や急変するような事態の発生などをメルクマールにして,区切りをつけることは可能であろう。しかし,それが全体に浸透して,変化をもたらすには,タイムラグがある。また,一つの要因で変化が起きるわけでもない。だから,時代を画する特徴をあげることが困難であった。景気循環やマクロ統計をたよりに,時代の特徴を析出することから始めた。次いで,これまでの斯界の論議を検証して,それぞれの時代の推進軸がなにか考察した。その上で,それぞれの期間に起きた事象を拾いながら,いかなる関連がみられるか分析し,その時代の特徴を説明するという手法をとった。経済事象には,それを構成する要素があり,その要素は複合しているが,経済を動かす要因となる。そういう要因は,国の政策等の国内的なものもあるし,外国からの変動が波及するものもある。それらが相互作用して経済関係に変化をもたらし,内部矛盾が高じると自壊して変化をおこすこともある。そのような変動を時期別に折出して,時期区分の特徴を明らかにすることとした。それを総括した試論表をマトリックスにして,末尾に示しているので,参考としてほしい。そういう意味で,本論の分析は試論的な,区分的特徴を述べることにした。
著者
金子 貞吉
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.48, pp.183-206, 2016

アベノミクスは異次元の金融緩和策を軸にしているが,その理論的根拠も間違っている。円安・株価上昇では金融的効果をあげたが,目標の消費者物価上昇率2%は達成せず,実体経済での成長戦略は失速し,肝心の国民生活を低下させた。 日銀政策を追跡すると,日銀の保有資産のなかで増加しているのは国債であり,その対価である準備預金だけが当座預金のなかに過大に積み増されている。それに対して,現金や貸出金の増加率は微増で,市中に通貨は流れていない。異次元的金融緩和策は,大量の国債を日銀が引き取る「財政ファイナンス」になっているといっても過言ではない。この供給通貨は,旧来の不況対策を復活させ,公共事業の資金に回り,民間投資には貢献していない。それは金融取引だけを増やし,実体経済には向かっていないことが明らかである。 もともと貨幣は実体経済の活動から発生するが,今日の銀行の信用創造は,企業の投資活動の資金需要に応ずる性格ではなくなっている。日銀も公信用をもって通貨を膨張させたが,国債は証券化して,マネー経済の核にすらなっている。