著者
齋藤 道彦
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.47, pp.539-561, 2015

琉球革命同志会・台湾省琉球人民協会・琉球国民党などの組織は,中国国民党/中華民国政府の意を受けた「琉球」吸収工作機関だった。本稿では,中国国民党・中華民国政府による1948年から1971年までの琉球/沖縄吸収工作を検討する。検討対象資料は,「喜友名嗣正(中国名:蔡璋)1948年8月22日付け葉次長閣下あて文書」,「琉球革命同志会工作報告」・台湾省琉球人民協会「工作報告(8,9月分)」(1948年10月付け),琉球革命同志会1949年12月「備忘録」,蔡璋「琉球国徽の由来琉球『万暦の役』の惨痛」(1949年2月25日『中華日報』)「琉球革命同志会・琉球人民協会」名「籲議書」(日付け不明),「中国国民党中央改造委員会から葉公超部長あて1951年2月20日付け代電」,「中国国民党中央委員会第 組から外交部葉公超部長あて1952年7月14日付け書簡」ほかの中華民国中央研究院近代史研究所檔案館所蔵の外交部檔案電子資料である。
著者
建部 正義
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.207-231, 2016-09-30

ベン・バーナンキの『危機と決断―前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録―』(小此木潔訳、角川書店、2015年)が出版された。 筆者は,拙稿「バーナンキは変節したのか―『連邦準備制度と金融危機』を読む―」(『東京経済大学会誌―経済学―』第277号,2013年2月,に所収,後に,拙著『21世紀型世界経済危機と金融政策』新日本出版社,2013年,に収録)のなかで、バーナンキの『連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録―』(小谷野俊夫訳,一灯舎,2012年)を参照しつつ,以下のように結論づけた。 はたして,バーナンキは,FRB議長に就任し,その経験を積むことによって,マネタリスト的見地から変節するにいたったのであろうか。まさに,そのとおりである。筆者は,理論的にはともかくとして,実践的には疑いもなくかれは変節したと考えている。 本稿の課題は,以上の結論を,バーナンキの新著『危機と決断』を読み解きつつ,再確認することにあったが,その課題を完全に果たすことができた。 要するに,バーナンキは,FRB議長に就任し,金融危機に対処するなかで,理論的にはともかく,実践的には,否,理論的にさえ,疑いもなくマネタリストの立場から伝統的なセントラル・バンカーの立場に変節するにいたったというわけである。
著者
堀川 祐里
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.337-368, 2017-10-10

本稿は,戦時期に盛んになった「女子労務管理研究」について,特に労働科学研究所で行われた研究を中心に考察していくものである。 戦時期において,経済的必要性からは賃労働をする必要がない階層の未婚女性を労働現場に引き出すため,「女子労務管理研究」が盛んに行われるようになる。 その担い手のうちでも労働科学研究所の古沢嘉夫は,労働力を提供しながらもその労働環境を配慮されることなく酷使されていた,既婚女性労働者の保護という視点を持っていた。動員政策以前から,経済的な必要性により賃金労働をしていた既婚女性は,動員政策上は動員の対象ではなかったため,その保護は等閑視された。そのため,「女子労務管理研究」において,古沢のように階層を視野に入れ,生計を維持するために働かなければならないような既婚女性労働者の分析がなされているものは限られる。 しかしながら,古沢には戦時下における研究の諸制約もあった。「女子労務管理研究」に見られる研究者の制約は,彼らの戦時下における葛藤を浮かび上がらせている。
著者
北原 零未
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.45, pp.13-37, 2014

2013年5月,フランスにおいてようやく同性婚法が成立した。一般には,1999年末に成立したパックス(PaCS)をもってフランスは同性カップルを国家的に認知し,法的裏付けを与えたということになっているが,男女のみに許可されている既存の婚姻制度を批判し,婚姻法そのものの改正を求めていた同性愛者たちにとっては,パックスの成立は前進ではなく,むしろフランス国家からの否定的回答であったと言える。 今回の同性婚法成立は,そのこと自体は多様な家族生活,ライフスタイルを認めるという観点からすれば前進と言えるが,しかしその成立直後には,パックス成立時の時以上の反対運動が行われた。そして,そこでは,同性愛のみならず,伝統的家族以外の家族形態すべてが批判され,保守主義・家父長主義回帰が見られたのである。もはや同性婚以前の問題であり,保守的な男女の規範が賛美された。
著者
小口 好昭
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.75-110, 2017

マクロ会計は,1940年から41年にかけてイギリスのケンブリッジ学派によって形成されたことを明らかにした。本稿は,これを会計学におけるケインズ革命と呼んでいる。同学派は,ケインズに始まりストーンに継承されて,マクロ会計の国際基準化に大きな貢献を果たした。ケンブリッジ学派については,ティリー(Tily, 2009)によるマクロ会計発展3 段階説と,アメリカ・ケインジアンであるパティンキン(Patinkin, 1976)の統計革命先行説を取り上げる。他方,フリッシュからオークルストに継承されたオスロ学派については,Aukrust(1994)のスカンジナビアにおけるマクロ会計発展5 段階説に依拠しながら,マクロ会計の公理化という独自の理論を生みだしたことを強調した。最後に,現代会計学は,両学派からミクロ会計とマクロ会計の同型性論という視点を継承し,さまざまな会計イノベーションを起こしつつあることを指摘した。
著者
齋藤 道彦
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.539-561, 2015-11-30

琉球革命同志会・台湾省琉球人民協会・琉球国民党などの組織は,中国国民党/中華民国政府の意を受けた「琉球」吸収工作機関だった。本稿では,中国国民党・中華民国政府による1948年から1971年までの琉球/沖縄吸収工作を検討する。検討対象資料は,「喜友名嗣正(中国名:蔡璋)1948年8月22日付け葉次長閣下あて文書」,「琉球革命同志会工作報告」・台湾省琉球人民協会「工作報告(8,9月分)」(1948年10月付け),琉球革命同志会1949年12月「備忘録」,蔡璋「琉球国徽の由来琉球『万暦の役』の惨痛」(1949年2月25日『中華日報』)「琉球革命同志会・琉球人民協会」名「籲議書」(日付け不明),「中国国民党中央改造委員会から葉公超部長あて1951年2月20日付け代電」,「中国国民党中央委員会第 組から外交部葉公超部長あて1952年7月14日付け書簡」ほかの中華民国中央研究院近代史研究所檔案館所蔵の外交部檔案電子資料である。
著者
宮寺 良光
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.175-202, 2017

近年の生活保護受給者増加の背景には,高齢者の生活困窮化が影響している。世帯類型別にみると「高齢者世帯」が生活保護受給世帯全体の半数程度にまで増加しており,このことが生活保護費の増加を懸念する材料になっている。しかし,このような問題の背景には,産業構造と社会保険制度の階層的構造に象徴される社会保障制度の構造的な問題に加え,社会保障・社会福祉の「構造改革」による費用負担構造の変化が新たな高齢者の生活困窮化要因につながっていることが疑われる。 本稿では,高齢者(65歳以上)に関連する統計データのうち,都道府県別に判別できるものを収集し,このデータを元に高齢者の生活保護受給要因について時系列に分析を試みたところ,かつては収入面の問題が主要な生活困窮化の要因であったが,近年では,支出面の問題が高齢者の生活困窮化を促している可能性がうかがえた。また,これらの要因を地域別に分析を試みたところ,都市部と地方部とでは異なる特徴がみられ,目前の課題として地域単位で取り組むにあたっては,地域の特徴を踏まえた課題克服のためのアプローチが必要であることがみいだされた。
著者
齋藤 道彦
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.46, pp.551-565, 2015

琉球と台湾で秘密組織として結成された琉球青年同志会は,中華民国軍のために沖縄に駐留する日本軍の情報を収集するスパイ機関だった。日本の敗戦後は,「琉球」(沖縄)を中国に吸収することを目的として活動し,琉球革命同志会と改名,中国国民党中央委員会,外交部などとも直接連絡を取りあっていた。琉球革命同志会などの中心人物は蔡璋であり,同会は中国国民党/中華民国政府の意を受けた「琉球」吸収工作機関だった。
著者
齋藤 道彦
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.551-565, 2015-09-30

琉球と台湾で秘密組織として結成された琉球青年同志会は,中華民国軍のために沖縄に駐留する日本軍の情報を収集するスパイ機関だった。日本の敗戦後は,「琉球」(沖縄)を中国に吸収することを目的として活動し,琉球革命同志会と改名,中国国民党中央委員会,外交部などとも直接連絡を取りあっていた。琉球革命同志会などの中心人物は蔡璋であり,同会は中国国民党/中華民国政府の意を受けた「琉球」吸収工作機関だった。
著者
佐藤 龍三郎
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.48, pp.15-40, 2016

2008年の1億2800万をピークに減少基調に入った日本の総人口が1億程度に維持されるには,出生力が人口置換水準まで回復することが不可欠である。それゆえ政策による少子化是正の可能性は重要な検討課題である。本稿は,日本の超少子化の原因論と政策論を再考し,この課題に迫る。結論として,現在あるいは近い将来において政策による少子化是正は極めて困難(ほぼ不可能)と考えられる。それは,①民主主義国では直接的な人口政策は実施できない,②少子化のメカニズムは主に未婚化であり,結婚促進政策は甚だ実行が難しい,③少子化・未婚化の土台に歴史的文化的要因が想定される,④配偶と生殖の古い型と新しい型が混在しており,政策は過渡的には出生力を低める可能性もある,⑤先進国の現代的な経済社会システムの下で出生力が人口置換水準に保たれている国のモデルが存在しない,などの理由による。ただし少子化の要因と政策のあり方については未解明の部分も多い。人口政策論と公共政策論の接合も含めて,さらなる研究の進展が求められる。
著者
北原 零未
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.13-37, 2014-09-25

2013年5月,フランスにおいてようやく同性婚法が成立した。一般には,1999年末に成立したパックス(PaCS)をもってフランスは同性カップルを国家的に認知し,法的裏付けを与えたということになっているが,男女のみに許可されている既存の婚姻制度を批判し,婚姻法そのものの改正を求めていた同性愛者たちにとっては,パックスの成立は前進ではなく,むしろフランス国家からの否定的回答であったと言える。 今回の同性婚法成立は,そのこと自体は多様な家族生活,ライフスタイルを認めるという観点からすれば前進と言えるが,しかしその成立直後には,パックス成立時の時以上の反対運動が行われた。そして,そこでは,同性愛のみならず,伝統的家族以外の家族形態すべてが批判され,保守主義・家父長主義回帰が見られたのである。もはや同性婚以前の問題であり,保守的な男女の規範が賛美された。
著者
福住 多一
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.45, pp.193-216, 2014

最後通牒ゲームの実験で被験者達にステロイドホルモンの1 つであるテストステロンを投与すると,公平な配分提案が増えることを,Eisenegger et al.(2010)は見出した。彼らは,応答者が拒否を選ぶことによって提案者に与えられた資源配分の権限が台無しになることを提案者が恐れ,その結果,公平な提案が増えるというステイタス仮説を提唱している。本論文は,この実験結果を説明するステイタス仮説の理論モデルを提示する。我々は,各プレイヤーは他のプレイヤーの効用を考慮に入れないとする。これが利他主義や公平性という最近の行動ゲーム理論における社会的選好の理論と,我々のモデルの大きな違いである。本論分はプロスペクト理論を応用し,損失回避の傾向と参照点を持つプレイヤーを想定する。そこで,テストステロンの増加がプレイヤーの参照点の上昇をもたらすと考えることで,Eisenegger et al.(2010)の実験結果をモデルは首尾よく説明することができる。提示したこのモデルは,信頼ゲームの実験でオキシトシンを投与したKosfeld et al.(2005)の実験結果も,うまく説明することができる。高い水準のテストステロン,すなわち我々の仮定のもとで高い水準の参照点を持つとされるプレイヤーは,自らの資源を相手に与える傾向が強まる。よって,その性質が世代を超えて安定的に保持されていくのかどうかは定かではない。本論文は,高い水準の参照点を選好として持つプレイヤーが,適応度に基づく進化動学によって内生的に出現することを,進化的安定性の概念を用いて説明する。
著者
佐久間 賢
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.47, pp.563-579, 2015

LMXの概念とその問題点を概観したあと,それが媒介変数(mediator)として作用する点に注目し,LMXによって経営成果が決められる関係を研究する。そして,LMX(説明変数)の内容が経営成果(目的変数)に影響をあたえる関係を具体的に検証するために,日本企業とグローバル企業の従業員に対するアンケート調査を実施した結果,両者ともに,リーダーが①メンバーに分かりやすく説明し,困っているときには援助するなどの支援機能,②メンバーが満足できるように仕事を解決し運営する問題解決機能,そして③メンバーを信頼して仕事を付託することによる人材育成機能の 点がLMXによるグローバルリーダーシップの基本的な条件として指摘される。
著者
北原 零未
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.45, pp.13-37, 2014

2013年5月,フランスにおいてようやく同性婚法が成立した。一般には,1999年末に成立したパックス(PaCS)をもってフランスは同性カップルを国家的に認知し,法的裏付けを与えたということになっているが,男女のみに許可されている既存の婚姻制度を批判し,婚姻法そのものの改正を求めていた同性愛者たちにとっては,パックスの成立は前進ではなく,むしろフランス国家からの否定的回答であったと言える。 今回の同性婚法成立は,そのこと自体は多様な家族生活,ライフスタイルを認めるという観点からすれば前進と言えるが,しかしその成立直後には,パックス成立時の時以上の反対運動が行われた。そして,そこでは,同性愛のみならず,伝統的家族以外の家族形態すべてが批判され,保守主義・家父長主義回帰が見られたのである。もはや同性婚以前の問題であり,保守的な男女の規範が賛美された。
著者
前原 正美
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.46, pp.51-86, 2015

本稿の目的は,総じていえば,石田三成の御旗「大一大万大吉」(だいいちだいまんだいきち)に見る政治思想を,『老子道徳経』ならびに聖徳太子の政治思想との関連で考察すること,また石田三成の経済観を明らかにすることにある。 本稿においては,従来の研究ではまったく考察されてこなかった石田三成の旗印「大一大万大吉」に焦点をあてて,石田三成の政治思想と経済観を考察した。本稿の独創的研究は,① 石田三成の旗印「大一大万大吉」の政治思想の原点を老子の政治思想に見いだしたこと,② 石田三成の政治思想は,老子の思想,聖徳太子の《「和」の政治思想》を受け継いで,《「愛」の政治思想》にまで昇華させた内容であること,③ 石田三成の旗印の意味内容には「大一」「大万」「大吉」にそれぞれ対応させて,石田三成の政治思想(「大一」),政治体制(「大万」),人間の幸福=生命いのちの尊さ(「大吉」)という意味内容が示されていること,④ また「公」儀=豊臣「政権」の政治思想は,公武合体思想であること,⑤ そして「公」儀=豊臣「政権」の二重性のゆえに,豊臣秀吉と石田三成との政治経済思想の見解の相違がしだいに浮き彫りになってゆくこと,⑥ 石田三成は,明国,朝鮮国との和平交渉によって貿易利益の増大や商工業の発展に伴う社会的生産力の向上→経済力の向上を通じて,豊臣「政権」の強化を企図したが,こうした考え方のなかに,石田三成の経済観を見てとることができること,などを明らかにした点にある。
著者
渡邉 浩司
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.47, pp.495-508, 2015

キリスト教の聖人の祝日が記載されている中世の暦は,キリスト教世界の記憶と異教世界の記憶がぶつかり合う場であり,ヨーロッパの文化を理解するための重要な鍵となっている。本稿は,暦上でそれぞれ6月24日と12月27日に祝日を持つ,洗礼者ヨハネと福音史家ヨハネという2 人の聖ヨハネをめぐる神話学的考察である。2人の聖ヨハネの祝日がほぼ「夏至」と「冬至」に対応するのは偶然ではない。西洋の占星術伝承によれば,「夏至」と「冬至」はそれぞれ「蟹座」と「山羊座」に対応するため,2人の聖ヨハネは「至点の扉」の門番の役割を果たしているのである。門番の雛形は,2つの顔を持つ古代ローマの神ヤヌスであり,中世のキリスト教世界はヤヌスを 人の聖ヨハネとして再解釈した。一方で「蟹座」と「山羊座」の守護星がそれぞれ「月」と「土星」であることは,2人の聖ヨハネが「メランコリー」の影響下にあったことも示唆している。
著者
建部 正義
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.48, pp.207-231, 2016

ベン・バーナンキの『危機と決断―前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録―』(小此木潔訳、角川書店、2015年)が出版された。 筆者は,拙稿「バーナンキは変節したのか―『連邦準備制度と金融危機』を読む―」(『東京経済大学会誌―経済学―』第277号,2013年2月,に所収,後に,拙著『21世紀型世界経済危機と金融政策』新日本出版社,2013年,に収録)のなかで、バーナンキの『連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録―』(小谷野俊夫訳,一灯舎,2012年)を参照しつつ,以下のように結論づけた。 はたして,バーナンキは,FRB議長に就任し,その経験を積むことによって,マネタリスト的見地から変節するにいたったのであろうか。まさに,そのとおりである。筆者は,理論的にはともかくとして,実践的には疑いもなくかれは変節したと考えている。 本稿の課題は,以上の結論を,バーナンキの新著『危機と決断』を読み解きつつ,再確認することにあったが,その課題を完全に果たすことができた。 要するに,バーナンキは,FRB議長に就任し,金融危機に対処するなかで,理論的にはともかく,実践的には,否,理論的にさえ,疑いもなくマネタリストの立場から伝統的なセントラル・バンカーの立場に変節するにいたったというわけである。
著者
粟倉 大輔
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.45, pp.39-57, 2014-09-25

本稿の課題は,「再製茶女工」について描かれた当時の新聞・雑誌の記事を分析し,その変遷と社会的背景について論じることである。記事には,彼女たちを蔑視するものや,お茶場の熱気に苦しんだり,清国人監督から虐待を受けたりした彼女たちを憐れむものがあった。これら記事が書かれた社会的背景としては,居留地という不可視化された空間が職場であったことや,そこがコレラの侵入口でもあった開港場に近いことといった居留地の性格や,居留地内の日本人の警察権をめぐる問題や内地雑居の実施が関係した,当時の欧米人・清国人と日本人との間の摩擦や対立があげられる。他にも労働運動家の考えを規定した性別役割分担思想の存在などもあった。本稿で「再製茶女工」の記事を歴史的に分析した結果,製茶業史研究における「女工哀史的考察」にもとづく「再製茶女工」の評価は,明治期の一時期における新聞記事をもとにしたものに過ぎなかったことが明らかにされた。
著者
粟倉 大輔
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.843-878, 2012-09-28

本稿は、明治期日本において製茶再製に従事した女性労働者=「再製茶女工」について論じ、その再評価を試みるものである。この再製技術は中国から導入されたもので、製茶輸出時に施された「火入れ(=乾燥)」と「着色」のことをいう。再製は居留地外商が経営していた「お茶場」で行われ、その現場は中国人男性が監督していた。 本稿では、お茶場における労働内容や内部のヒエラルキー、労働環境、賃金を詳細に検討した。これらの他にも、「再製茶女工」となった女性本人についても論じている。さらに、当時の新聞・雑誌における彼女たちに関する報道の分析を通じて、そのイメージ形成についても検討を加えた。以上を通じて、「再製茶女工」に対する「女工哀史」的な見方を修正する必要があること、また明治期日本の産業発展に未婚・若年労働者だけではなく既婚女性も大きな役割を果たしていたことを明らかにした。
著者
金子 貞吉
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.67-103, 2018-10-10

本稿は,戦後日本経済の発展史をたどるために,どのように区分して,それをどのように特徴づけるか,考察することである。経済事象は連続しているので,それをただ時系列的に述べるのではなく,時期区分して,その特徴を明らかにしようとするものである。経済発展は,時期区分できるほど,きちんとした変動をみない。政策の転換や急変するような事態の発生などをメルクマールにして,区切りをつけることは可能であろう。しかし,それが全体に浸透して,変化をもたらすには,タイムラグがある。また,一つの要因で変化が起きるわけでもない。だから,時代を画する特徴をあげることが困難であった。景気循環やマクロ統計をたよりに,時代の特徴を析出することから始めた。次いで,これまでの斯界の論議を検証して,それぞれの時代の推進軸がなにか考察した。その上で,それぞれの期間に起きた事象を拾いながら,いかなる関連がみられるか分析し,その時代の特徴を説明するという手法をとった。経済事象には,それを構成する要素があり,その要素は複合しているが,経済を動かす要因となる。そういう要因は,国の政策等の国内的なものもあるし,外国からの変動が波及するものもある。それらが相互作用して経済関係に変化をもたらし,内部矛盾が高じると自壊して変化をおこすこともある。そのような変動を時期別に折出して,時期区分の特徴を明らかにすることとした。それを総括した試論表をマトリックスにして,末尾に示しているので,参考としてほしい。そういう意味で,本論の分析は試論的な,区分的特徴を述べることにした。