- 著者
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仁木 一郎
金子 雪子
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.128, no.4, pp.214-218, 2006 (Released:2006-10-13)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
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膵B細胞からのインスリン分泌における大きな特徴のひとつとして,多様な栄養物質によるインスリン分泌の調節をあげることができる.私たちは,様々な分泌刺激による膵B細胞からのインスリン分泌が,含硫アミノ酸であるL-システインによって強力に抑えられることを見いだした(Kaneko, et al. Diabetes. 2006).L-システインが膵B細胞に与えるインスリン分泌抑制・グルコース代謝阻害・グルコースによる細胞内Ca2+オシレーション抑制などの作用は,硫化水素(H2S)ドナーであるNaHSによっても再現される.H2Sは,古くから自然界に存在する有毒ガスとして知られてきたが,最近の研究により様々な細胞においてシグナル伝達をおこなう可能性が示されており,一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)に次ぐ第3のガス性シグナル伝達分子と目されている.私たちは,L-システインが代謝されて生じたH2Sが,膵B細胞でインスリン分泌抑制以外の細胞機能をも調節しているのではないか,と考えている.L-システインなどの含硫アミノ酸の血中レベルは,糖尿病や動脈硬化など,一部の生活習慣病で異常値を示すことが臨床研究で明らかにされている.これらの結果は,生活習慣病で見られるインスリン分泌障害が,L-システインやその代謝産物であるH2Sによる可能性を示唆している.この総説では,シグナル分子としてのH2Sに関するこれまでの研究を振り返るとともに,膵B細胞におけるL-システインおよびH2Sによるインスリン分泌抑制が持つ意義について,私たちの考えるところを述べた.