著者
鈴木 佑介
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.161, 2009

【はじめに】<BR> 今回、両恥~坐骨骨折により歩行開始後に歩容の不安定感がみられ、転倒危険性のある症例を担当する機会を得た。新聞配達への強い復帰願望があるが、本人の歩行に対する不安感も強く、今回は立位での歩行訓練よりも臥位による訓練の有効性が高いと考え、その中で寝返り動作と歩行の共通点に着目し、寝返り動作に対しアプローチを行った。その結果、歩容に変化が見られ歩行に対する不安感の改善が得られたのでここに報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 71歳女性。職業:新聞配達(歩行)。現病歴:平成20年10月29日両恥・坐骨骨折受傷。11月21日紹介転院、25日より理学療法・歩行訓練開始。<BR>【理学療法評価[H20.11.25]】<BR> 右股関節内旋時、右恥骨部に疼痛(VAS2/10)。両内転筋収縮時痛(VAS1/10)。腹直筋、腹斜筋normalレベル。両大内転筋、両大腿筋膜張筋、両腓骨筋の筋緊張亢進。歩行時、寝返り時疼痛無。<BR>【動作分析及び臨床推論】<BR> 右荷重応答期~立脚中期において骨盤右回旋が不足し、その後立脚中期後半にかけて体幹の前傾と共に骨盤が右後方へ引けていた。この現象は、右股関節内旋時の疼痛による内旋制限のため、左立脚後期で得た骨盤の前方かつ右回旋方向への加速度にブレーキがかかり、左下肢から骨盤・上部体幹への運動の連結が行えず、結果として右立脚中期後半において前方への重心移動を体幹前傾で代償したと考えた。<BR> 寝返りに関しては、右側への寝返り時、左下肢で床面を蹴り骨盤を右方向へ回旋させるものの、側臥位付近で骨盤の回旋にブレーキがかかり重心が支持面を超えることが出来ず、結果的に上部体幹右回旋を代償的に利用し腹臥位方向に移動していった。<BR> これらの結果より寝返りにおいて右股関節の内旋を誘導しながら左下肢から骨盤、さらには上部体幹への運動の連結を測り、床面を蹴ることにより作り出された回旋力を左下肢から上部体幹へスムーズに伝達させることにより歩容においても改善ができると考えた。<BR>【PTアプローチ】<BR> 1.筋膜リリース 2.股関節機能訓練 3.体幹機能訓練 4.基本動作訓練(寝返り)<BR>【結果[H20.12.15]】<BR> 右股関節内旋時痛、内転筋収縮時痛消失。右側への寝返り時、左下肢から骨盤、上部体幹の連結が図れ、股関節の内旋も可能となったことにより、左下肢で作った回旋運動のスムーズな上方への運動連結が見られた。その結果、骨盤の右回旋も可能となり、歩行においても体幹前傾での代償が減少した。また、それにより本人の歩行に対する不安感も軽減された。<BR>【まとめ】<BR> 今回、歩行に対する強い不安感のために、本人のデマンドを達成できない症例を担当した。このように歩行に対する本人の強い不安感がある場合、立位によるアプローチよりも寝返りと歩行のリンクに着目し、歩行訓練の一手段として寝返り動作にアプローチする事も効果的であると考える。