著者
北村 寿 三角 隆 扇田 哲男 浅野 和也 鈴木 則仁
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.45, pp.37-40, 2009-03

検疫現場や農業現場における病害虫管理において、臭化メチルは有用なくん蒸剤として使用されてきた。しかしながら、臭化メチルはオゾン層破壊物質に指定されており、現在では検疫と不可欠用途以外での消費が禁止されている。一方リン化水素は、臭化メチルに代わるくん蒸剤として貯穀害虫管理のため広く使用されている。農薬を含む化学物質の食品中への残留については食品衛生法のもとで規制されており、基準値以上の量の農薬が残留する食品の流通が禁止されている。植物検疫くん蒸に使用されるリン化水素も同法により規制されており、その残留分析法については公定分析法として定められている。ヘッドスペースガスクロマトグラフを用いたリン化水素の残留分析は、小麦及び小豆において公定分析法よりも迅速・簡便な方法であるとの報告があり、その分析精度は公定分析法と同等であるとしている。また、この方法は、穀類、スパイス及びハーブの数種においても高感度でリン化水素の分析が可能であるが、大豆など粒が大きな品目ではばらつきの大きなデータとなり、ウコン等においてはくん蒸前に破砕することが残留値に影響を与えることが報告されている。この原因として、リン化水素の残留は一粒一粒の残留量がかなり異なることが考えられる。正確な残留量を評価するためには再現性のあるデータを得る必要があり、その方法の一つとして試料を破砕均一化することが考えられた。また、リン化水素は常圧条件下では揮発性の化合物であり(沸点:-87.7℃)、破砕により熱を発生し試料から揮散してしまう可能性がある。したがって破砕する際には揮散をできるだけ抑えるために低温条件下で実施する必要がある。以上から、低温条件下で穀類、スパイス及びハーブ類を破砕してヘッドスペースリン化水素残留分析を実施し、再現性のある前処理及び分析方法を検討した。