著者
内藤 浩光 林 浩司 西﨑 博則
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.52, pp.1-6, 2016-03

臭化メチルは、長年植物検疫の効果的なくん蒸剤として使われてきたが、オゾン層保護の観点からその使用を最小限にとどめる努力が国際的に進められている。日本の検疫病害虫の一つであるグラナリアコクゾウムシに対しては、臭化メチルの代替剤としてリン化水素が有効であるが、本調査においては、酸素濃度を高くした条件下でリン化水素くん蒸によるグラナリアコクゾウムシ蛹の感受性がどう影響を受けるかについて試験を実施した。さまざまな酸素濃度とくん蒸日数において、リン化水素2.0mg/l、15℃でくん蒸した結果、同じくん蒸期間でみると、より高い酸素濃度で殺虫効果がより高くなった。100%の殺虫効果が酸素濃度30及び40%、9日間で達成された。ロジット解析による酸素濃度40%でのLT50、LT95及びLT99は、それぞれ0.93、3.38及び4.75日であり、LT50及びLT95は通常大気条件下で行われた過去の調査結果の値の半分以下であった。酸素濃度40%以上でのリン化水素くん蒸が、グラナリアコクゾウムシ蛹に対して95%以上の殺虫効果を得るために効果的であると考えられた。リン化水素0.3、0.5及び1.0mg/l、酸素濃度30及び40%、9日間、15℃でのくん蒸の結果、100%の殺虫効果は得られなかった。同じ薬量で比較すると酸素濃度40%で殺虫効果は高く、酸素濃度40%、薬量0.5及び1.0mg/lでは、99.7%以上の殺虫効果が得られた。以上の結果から、グラナリアコクゾウムシ蛹は、酸素濃度30%以上、9日間、15℃で、くん蒸中リン化水素濃度2.0mg/lを維持することにより100%殺虫されることが明らかとなった。また、酸素濃度を40%よりも高くすることにより、グラナリアコクゾウムシ蛹を100%殺虫するリン化水素の投薬量及び処理期間を、低下、短縮することが可能であることが示唆された。
著者
北村 寿 三角 隆 扇田 哲男 浅野 和也 鈴木 則仁
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.45, pp.37-40, 2009-03

検疫現場や農業現場における病害虫管理において、臭化メチルは有用なくん蒸剤として使用されてきた。しかしながら、臭化メチルはオゾン層破壊物質に指定されており、現在では検疫と不可欠用途以外での消費が禁止されている。一方リン化水素は、臭化メチルに代わるくん蒸剤として貯穀害虫管理のため広く使用されている。農薬を含む化学物質の食品中への残留については食品衛生法のもとで規制されており、基準値以上の量の農薬が残留する食品の流通が禁止されている。植物検疫くん蒸に使用されるリン化水素も同法により規制されており、その残留分析法については公定分析法として定められている。ヘッドスペースガスクロマトグラフを用いたリン化水素の残留分析は、小麦及び小豆において公定分析法よりも迅速・簡便な方法であるとの報告があり、その分析精度は公定分析法と同等であるとしている。また、この方法は、穀類、スパイス及びハーブの数種においても高感度でリン化水素の分析が可能であるが、大豆など粒が大きな品目ではばらつきの大きなデータとなり、ウコン等においてはくん蒸前に破砕することが残留値に影響を与えることが報告されている。この原因として、リン化水素の残留は一粒一粒の残留量がかなり異なることが考えられる。正確な残留量を評価するためには再現性のあるデータを得る必要があり、その方法の一つとして試料を破砕均一化することが考えられた。また、リン化水素は常圧条件下では揮発性の化合物であり(沸点:-87.7℃)、破砕により熱を発生し試料から揮散してしまう可能性がある。したがって破砕する際には揮散をできるだけ抑えるために低温条件下で実施する必要がある。以上から、低温条件下で穀類、スパイス及びハーブ類を破砕してヘッドスペースリン化水素残留分析を実施し、再現性のある前処理及び分析方法を検討した。
著者
相馬 幸博
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.46, pp.85-88, 2010-03

サイロに収容した穀物の検疫処理には、臭化メチルやリン化水素などのくん蒸剤を用いるのが一般的であり、低薬量で効率的なくん蒸を実施するためにはサイロ内に投薬されたくん蒸ガスを短時間で均一化する必要がある。そのため、臭化メチル検疫くん蒸では、投薬後2時間以内にサイロ内のガス濃度を均一化できる循環装置を有することが条件となっている。そこで、臭化メチルと二酸化炭素を用い、現在使用している測定器具等を利用し、投薬後のサイロ内ガス濃度を調査、比較するとともに、二酸化炭素によるサイロ循環装置の調査基準を作成したので報告する。
著者
吉永 真訓 正木 征樹 土肥野 利幸
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.45, pp.41-47, 2009-03

ミカンコミバエBactrocera dorsalis卵をサイズ又は品種の異なるマンゴウ生果実に寄生させて蒸熱処理を行い、サイズ又は品種の違いが殺虫効果に及ぼす影響について調査した。1) 殺虫効果に及ぼすサイズの影響を調べるため、カラバオ種マンゴウのS、M、Lサイズにミカンコミバエの卵を寄生させ、果実中心温度が44.0、45.0、45.5、46.0、46.5、47.0℃になるまで蒸熱処理(庫内温度49.0℃、相対湿度95%設定)し、殺虫率をサイズ間で比較した。その結果、各目標温度に達した時点での殺虫率はサイズによって異なり、大きいサイズの果実ほど殺虫率は高くなることが示された。大きい果実ほど中心部の温度上昇は緩やかで、その分だけ高温にさらされる時間が長くなることから、このことが原因したものと考えられた。2) 次に、殺虫効果に及ぼす品種の影響を調べるため、2品種マンゴウ(ケンジントン種、トミーアトキンス種)にミカンコミバエ卵を寄生させ、前述の条件で蒸熱処理して、得られた殺虫率を品種間で比較した。処理に際しては品種間でサイズに差が出ないように配慮した。プロビット解析の結果、トミーアトキンス種に寄生させた卵が有意に殺虫されやすいことが示され(LT90、LT95)、品種の違いが殺虫率に影響していることが明らかとなった。ただ100%殺虫が得られた処理条件はいずれの品種でも46.5℃以上と変わらず、完全殺虫条件に近い厳しい処理条件下では品種の違いの影響は少なくなるものと考えられた。なお、2品種間で果実の温度上昇速度はほとんど違わず、殺虫効果を左右する要因として、温度上昇速度以外の要因が品種間で存在する可能性が示唆された。
著者
迫田 琢也 月星 隆雄 柳澤 広宣 岡部 郁子
出版者
横浜植物防疫所
雑誌
植物防疫所調査研究報告 (ISSN:03870707)
巻号頁・発行日
no.46, pp.73-78, 2010-03

2007年4月、成田国際空港における輸入検疫でアメリカ合衆国産ツワブキ苗の葉に褐色~黒色、円形の斑点が認められ、Alternaria属菌が高率に分離された。分離菌は無傷噴霧接種でツワブキに原病徴を再現し、サイネリアおよびシロタエギクにも病原性を示した。いずれの植物からも接種菌が再分離された。本菌の分生子は単生あるいは2-3連鎖し、黄褐色~褐色、倒洋梨形~倒棍棒形で、横隔壁部がくびれる。本体部は50-132.5×17.5-37.5μm、横隔壁数3-9、縦隔壁数0-6、嘴部は最長62μm、幅5-16.3μmである。形態的特徴から本菌をA. cinerariae Hori and Enjojiと同定した。同定結果は、接種試験およびrDNA-ITSとgpd遺伝子領域の分子系統解析から支持された。本菌によるツワブキの病害は我が国未報告のため、斑点病(英名: Leaf spot)と呼称することを提案する。