著者
鈴木 惠雅 宮本 武典
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.76-82, 2015-06-10 (Released:2015-06-22)
参考文献数
47

本来,我々にとって最も日常的な食べ物の好き嫌いは生得的に決まっている。しかし,新奇の味を摂取後,内臓不調により不快に感じると,その味を忌避するようになる(味覚嫌悪学習)。この時に獲得する記憶を味覚嫌悪記憶という。一方で,嫌悪記憶を獲得した味も, 内臓不調を伴わず快と感じれば嫌悪記憶を読み出せなくなり,その味を再び好むようになる(消去学習)。この時に獲得する記憶を消去記憶という。我々は,マウスを用いた行動実験によって,性成熟を促す雄性ホルモン(アンドロゲン)の一つであるテストステロンが,味覚嫌悪学習後の消去記憶の保持機構に著しい影響を及ぼすことを明らかにしてきた。その結果,消去記憶の保持機構の成熟は,消去に関連する脳部位(扁桃体,前頭前野腹内側部)が,性成熟前と性成熟後の2段階でテストステロンに曝露されることが必要であり,特に,性成熟前の高くはないが一過性のテストステロン曝露が非常に重要であることが示唆された。近年,行動の発現を調節する中枢神経系への性ホルモンの作用に注目した研究が数多く報告されている。本稿では,性成熟の視点から,味覚嫌悪学習後の消去記憶保持機構の成熟に対するテストステロンの役割について,主として我々の研究成果を通して解説する。