著者
鈴木 昌代
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.62, 2003

【目的】最近携帯電話の普及により、高校生の金銭感覚が変化している。実際に本校の1年生(72名)と2年生(63名)に、携帯電話に対する意識調査を行った。その結果、ほとんど(93%)の生徒が所有しており、使用頻度が高く、中には月々の使用料金が5万円という生徒もいた。さらに携帯電話の料金は、小遣いとは関係なく両親が支払っており、携帯料金が家計に及ぼす影響について質問したところ、約半数の生徒が「家計に全く影響していない」「わからない」と回答していた。その上、大部分の生徒が、携帯電話は必要であると答えていた。したがって、高校生に携帯電話の欠点をよく認識させ、正しい金銭感覚を養い、限られたお金を効率よく使用しなければならない家庭経営の難しさを教育・指導してゆく必要がある。さらに、家族各々が満足し、豊かな家庭生活を営むには何が大切かを生徒に教えて行きたいと思う。そこで本研究では、将来の生活設計を視野に入れた家庭経済を考えさせるために、家庭経営のシミュレーションを授業に取り入れ、実践的な授業を行った。 <br>【方法】本校生徒2年126名(男子64名 女子62名)を34グループに分け、親と高校生がいることを条件に家族を設定し、家族経営をシミュレーションさせた。具体的には、父親、母親、娘、息子等の役割を分担し、家族の将来設計や職業、趣味等の家族像を作らせた。その後、それぞれの家族で予想される1ケ月の収入を決めさせ、それに対し、諸費用(公共料金、食費、住居費、被服費、教育費、教養・娯楽費、通信費、預金、予備費等)を分配して家庭経済の検討をさせた。その際、家族の短期・長期生活設計に基づいて趣味やイベントに費やす購入希望品や小遣い、財産について検討させ、1ケ月分の予算を決定させた。そしてこの予算に対し、それぞれの立場から自分の満足度と自分以外の家族の満足度を、?軸とY軸の座標上にポストイットを貼ることで評価させた。さらに、シミュレーションによる効果をアンケートにより評価した。<br>【結果】家庭経営のシミュレーションにより、70%以上の生徒が家庭経営を理解でき、その難しさも把握できたと答えていた。その中でも、実際に生徒の家では共働きの家庭が多いため、家事と仕事を両立する母親の方が父親より苦労していると答えていた。そのため、家計に協力したいと答えた生徒の約半数は、家事を手伝いたいと述べていた。鈴木は昨年度の日本家政学会で、家事労働には「家族のきずな」を深める効果があると報告している。したがって本研究によっても、最終的には家族のきずなの形成に結びつくと思われる。 <br>座標軸により、個人の満足度と家族の満足度を比較した場合、お互いが話し合い、理解し合った家族は、家庭経営による家族全員の満足度が一致していた(18/30 家族)。これらの家族に所属した生徒は、お金よりも家族間のコミュニケーションの方が家庭経営に重要だ、と述べていた。その他、両親と子どもの間に満足度が二分化されたものが4家族。子どもたちの満足度は一致しているが、両親がばらばらであるパターンが2家族。1人を除く家族の満足度が一致しているものが6家族。家族全員がばらばらなものが4家族であった。 <br>さらに、シミュレーションの勉強をした後に、携帯電話の使用について調査すると、大部分の生徒が必要だが、使用頻度を減らすことが大事だと答えていた。 以上のことから、家庭経営のシミュレーションを授業に取り入れ、実践的な授業を行うことは、高校生の金銭感覚を養い、さらに家族のきずなを深め、豊かな家庭生活を営ませるのに効果的であると結論づけることができる。