著者
鈴木 龍也
出版者
中日本入会林野研究会
雑誌
入会林野研究 (ISSN:2186036X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.23-34, 2020 (Released:2020-05-01)

本報告は、近年の入会訴訟(財産区に関する訴訟も含む)およびイギリス(基本的にイングランドのみに対象を絞る)のコモンズに関する立法の分析から示唆を得て、日本の入会林野のガバナンスに今何が必要とされているか考察するものである。近年においても入会や財産区がかかわる訴訟のうちのかなりの部分を「開発」に起因する訴訟が占めている。また、最近は財産区の適切な管理を求める市民からの請求が、住民訴訟という形で行われるようになってきている。これらは入会団体内部の構成員および外部の市民からの現状の入会財産管理に関する異議申立である。イギリスでは、コモンズの管理不全に対応すべく立法へ向けた努力が継続されてきた。その過程では、コモンズの所有者やコモナーの利害に加えてコモンズへの市民のアクセスや動植物の保護、農地や林地としての利用など様々な利害をどのように調整するかが問われてきた。これら2つの対象に関する検討から示唆されるのは、今後の入会地の管理にとって、入会地にかかわる様々な公益の内容および優先順序に関する社会的な合意を形成すること、そして具体的な場でそれら様々な公益を調整しうる有効な枠組みを作り上げていくことが喫緊の課題となっているということである。
著者
鈴木 龍也
出版者
中日本入会林野研究会
雑誌
入会林野研究 (ISSN:2186036X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.31-40, 2021 (Released:2021-04-05)

入会財産たる不動産について旧入会代表者などの名義による所有権の登記がされている場合に、入会団体と登記名義人の相続人などとの間で入会権の存否などをめぐる紛争が生じ訴訟となることは珍しくない。そのような訴訟を入会団体側から提起するには入会団体構成員全員が原告とならなければならないとされるなど訴訟提起のハードルは非常に高いものであった。またそのような訴訟において登記名義人に対して誰の名義への登記の移転を求めていけばいいのかも不明確であった。ところが近年においては入会団体が権利能力なき社団にあたる場合には権利能力なき社団について形成されてきた法理を「適用」して、社団代表者や社団自身が原告となって社団の代表者名義への移転登記を求めることを認めるなど、入会権(総有権)の確認や入会団体側に登記を戻すことを請求する訴訟の提起を容易化する判例法理が形成されてきている。本報告では重要な判決の検討によりそのような判例法理の内容そしてそれが基礎としている考え方を明らかにするとともに、そのような判例法理の意義および問題点について若干の批判的な検討を試みる。