著者
銘苅 純一
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2012, no.22, pp.109-132, 2012

本稿では、目取真俊「虹の鳥」の初出本文と初版本文の異同を調査した。その結果、2004年に『小説トリッパー』(冬号、朝日新聞社)に掲載された初出と、2007年に単行本化された『虹の鳥』(影書房)には、多くの異同が見られた。異同の総数は469箇所で、そのほとんどは初出と初版の読者層の違いによるルビの削除や、若干の加筆修正であった。しかし、特筆しべき点として、姉・仁美が米兵にレイプされるという設定が加筆されていること、仁美・マユ・1995年の少女暴行事件の被害者が重なりをもって描かれることの二点が挙げられる。これは初出の書評などで述べられた、「人間らしく」描かれる仁美が目取真の思想の変化を示唆するといった指摘への反駁によるものと推察される。すなわち、「人間らしさ」を維持した仁美に希望を託すといった安易な評価は、仁美へのレイプという加筆によって拒絶される。