著者
鎌田 直美 若林 靖永
出版者
一般社団法人 日本観光経営学会
雑誌
観光マネジメント・レビュー (ISSN:24362921)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.16-31, 2023-03-31 (Released:2023-04-07)

本研究は、観光による新市場の創造や伝統産業の新たな展開、地域活性化に有効な論理として熟達した起業家の行動原理であるエフェクチュエーションに注目し、事例分析によってその有効性を明らかにするものである。事例として建築家で起業家の山川智嗣氏が経営する株式会社コラレアルチザンジャパンの宿泊事業「Bed and Craft」を取り上げる。調査方法は、既出のインタビュー記事、講演、公式SNSから収集したデータを基に山川氏への半構造化インタビューを実施し、分析の枠組みとしてエフェクチュエーションの論理、推論技法に物語分析を用いた。その分析の結果として、事業の創造、発展、転機が展開し、新たな市場が創造されるプロセスにおいて、起業家のエフェクチュアルな行動と意思決定が積み重ねられていることが確認された。また、エフェクチュエーションを大きく駆動したことについて、起業家による自らのアイデンティティの転換とパラダイムシフト、それによる間主観的行動の発達がきっかけとなったことが明らかとなった。事業の成長においては、地域住民や事業パートナーとの強い相互共感とフラットな関係性の構築、サービス高付加価値化の追求が要点として示された。