著者
青木 実枝 三澤 寿美 鎌田 美千子 新野 美紀 川村 良子
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
山形保健医療研究 (ISSN:1343876X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-10, 2006-03-31
被引用文献数
1

本研究は,地域で活動する保健師の災害時ヘルスケアニーズに対する役割意識を明らかにすることを目的に行った.調査対象者はA県の市町村および保健所に勤務する保健師358人である.回答者282人(回答率77.5%)現施設の平均従事年数14.4プラスマイナス9.5年である.調査内容は、全災害サイクルにおけるヘルスケアニーズと災害時救護・救援活動に関する研修・訓練・シミュレーションの参加状況,および役割を遂行するに当たって気になることである.全災害サイクルにおけるヘルスケアニーズは先行研究を参考にして52の質問項目を設定した.その結果,50%以上の対象者が自分の役割であると回答したものが22項目あり,保健師は全災害サイクルにおけるヘルスケアニーズに対して役割意識が高いことが明らかになった.中でも,保健師が自分の役割であると強く意識する傾向にあったのは,発災時期から亜急性期のヘルスケアニーズである,1被災地の衛生状況や被災住民の健康状態および災害弱者の把握,2健康障害を予防するための巡回活動や広報活動および環境の工夫,3心理的影響への対応,4感染予防に関する項目であった.保健師が自分の役割ではないと意識する傾向にあったのは,災害休止期や復興期のヘルスケアニーズである,1被災者の生活の立て直しに関する項目,2組織作りや資源マップ作り等であった.しかし,保健師の災害看護や災害時救護・救援活動に関する研修等の受講経験者は18.4%のみであった.さらに、保健師が自分の役割意識に基づいて役割行動を起こすことに対して,自信がないと回答したのは84.4%であった.以上の結果から,地域で活動している保健師は,大規模災害が発生した場合,発災時期から亜急性期のヘルスケアニーズへの役割意識の方が,災害休止期や復興期のヘルスケアニーズへの役割意識よりも高いことが明らかになった.しかし,実際には,地域で看護活動を展開する保健師であるがゆえに,復興期における地域住民の生活の立て直しや,生活の立て直しに関連した健康問題への対処などのヘルスケアニーズに対する役割に期待が高いと考えられる.このことから地域住民のヘルスケアニーズによって期待される役割と実際の保健師の看護活動との乖離が予想される.また,保健師のヘルスケアニーズに対する役割意識は広範囲で高いが,意識している役割に基づいて行動するために必要な知識・技術が不十分であることが明らかになった.