著者
鎌田 英男 若木 重敏 工藤 士郎 熊部 潔 香川 恒雄
出版者
Japan Antibiotics Research Association
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1958

Carzinophilinは, 秦等によつて, 土壌放線菌の吉田肉腫に対する抗腫瘍性を検索中発見された抗腫瘍性物質である。本物質を産生する放線菌は<I>Streptomyces sahachiroi</I>と名付けられ, 培養条件の検討およびCarzinophilinの抽出に関する報告は既に秦等1) によつて発表されている。更に本物質の結晶化に関する研究は, 鎌田等2) によつて完成され, 島田3) 等を中心とした130余例に上る臨床実験を経て, 有効な抗腫瘍剤として使用されているものである。<BR>Carzinophilinの性質の概略を述べると,<I>St. sahachiroi</I>の培養液から醋酸ブチルに転溶し, メタノール添加によつて白色針状結晶として得られる。水に難溶であるが, pH9.0附近の重曹水には少しとける。水溶液中の紫外部吸収は, 218および250mμ附近に極大値を示す。臨床的には腫瘍の軟化縮小, 腫瘍細胞の崩壊が起り, 症状の緩解, 生存日数の延長がみられる。腫瘍別にみると, 肉腫, 白血病 皮膚癌, 胃癌, その他に効いている。実際, 腫瘍患者の治療にも多く使われているが, 薬理作用の一端を検討したので, ここに報告する。<BR>先ず<I>in vitro</I>において, 薬剤と腫瘍細胞と接触させ, 薬剤が細胞の原形質膜を破つて侵入し4), 代謝機構のどこかに阻害を示し, やがて細胞の変性崩壊または分裂等の作用として現われる過程を逐次追及した。次いで,<I>in vivo</I>において, その作用がどこまで再現されるか, 更に担癌動物にCarzinophilinを投与し腫瘍の増殖経過ならびに担癌動物に与える影響を毒性および正常機能の回復という面から検討した。特に腫瘍の悪性度や, 進行度と密接に関連していると考えられている肝カタラーゼ活性に着目し, Carzinophilin処理後の肝カタラーゼ活性から全身状態の緩解を推定した5), 6)。以下, 8章にわけ逐次報告する。