著者
中井 悠斎 朝田 康夫 祖父江 昌彦 塩崎 華子
出版者
Japan Antibiotics Research Association
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.191-193, 1967

過去においては, 外科的手術創や熱傷等の2次感染の起炎菌はブドウ球菌がその主役を演じていた。しかし, 近年のすさまじい抗生物質の開発普及によつて, ブドウ球菌感染症は著るしく減少し, これに代つてグラム陰性桿菌の2次感染が注目されるにいたつた。緑膿菌をはじめとするこれらグラム陰性桿菌感染症の増加については, 広域抗生物質の長期投与によるこれら自然耐性をもつ菌の菌交代現象, 副腎皮質ホルモン剤の使用等の諸因子が挙げられている。<BR>さて, われわれ皮膚科領域においては, 広汎な熱傷の治療中に緑膿菌の2次感染がしばしば起り, 患者の治療面に, あるいは予後にいくつかのやつかいな問題を提供する。近年, 第3度熱傷に対しては, 従来の軟膏療法に代わつて早期植皮術の施行が治療日数の短縮のほか, のちの肥厚性瘢痕の発生, 瘢痕拘縮等を予防するという面において, 最良の方法であるといわれて来た。しかし, この間, 緑膿菌感染をひき起すと創傷の治癒傾向遅延, 植皮術のさいの皮片の生着不良, あるいは発熱, 等の全身症状から敗血症にまでいたる種々の合併症を併発し, 熱傷の治療に大きな障害となつていることは, 衆知の事実である。しかし, 今日においても, 緑膿菌感染に対しては特効的薬剤に乏しい現状である。今回, 我々は新らしい抗生物質カスガマイシンを緑膿菌の感染をともなう熱傷患者に対して注射あるいは外用として使用する経験を得るので, 報告する。
著者
宮本 泰 佐藤 直行 三浦 馨 柳沢 謙
出版者
Japan Antibiotics Research Association
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.7, no.7, pp.246-250, 1954

先に細谷1) らは, 本邦の土壌から分離した放線菌の1株H-365株が, 抗菌スペクトル並びに動物に対する低い毒性などの点でStreptomycin (SM) に類似の性質を示す新抗生物質を産生することを見出し, この株が<I>Streptomyces reticule</I>に属することから, この物質をReticulinと命名した。後に, BENEDICT2) らはscreeningの途上でやはり日本 (千葉県) において採取された土壌の2っの別々のサンプルから得られた2株が, SM類似の抗生物質を産生することを見出したが, この株は従来SM産生株として知られている<I>S. griseus</I>及び<I>S. bikiniensis</I>とは異なる新種で, 彼らはこれを<I>S. griseocarneus</I>と命名し, その有効産生物質はHydroxystreptomycinであることを指摘した。<BR>細谷3) らはその後, screeningを継続して2,000種以上の分離放線菌の中から, グラム陽性及びグラム陰性菌に有効な抗生物質産生株100株余を分離したが, その中からreticulin産生株として5株を得て, このものの生物学的性状, 有効物質の精製などを研究し, 得られたreticulinを用いてモルモットに於ける実験的結核症に対する治療実験をおこない, 著るしい効果が見られたことを報告4)した。更に, 細谷5) らは, <I>S. reticule</I>とBENEDICTらの得た<I>S. griseocarneus</I>との異同並びにそれらの産生物質であるreticulinとhydroxystreptonlycinとの異同を詳細に研究し, これらの産生株は分類学的に異なるものであること, 並びにreticulinとhydroxystreptomycinとは化学的に同一物質であることを結論するに至つた。<BR>著者らは, 1951年から1952年にかけて, 当時細谷から依頼を受けたreticulinのサンプルを用いて, モルモットの実験的結核症に対して長期の治療実験をおこない, 遠隔治療成績をも含めて, 同時に治療対照として用いたSMと同程度の著るしい成績を認め, 昭和27年6月文部省綜合研究結核研究委員会化学療法研究科会に報告した。その時の実験では, 当時までに発見された主な抗結核剤, 即ちPAS及びTB1をも同時に最終的に比較をおこなう目的の下に, 遠隔成績の観察をも兼ねて多数の動物群を編成したが, 不運にも溶血連鎖球菌による肺炎の流行に遭遇し, 実験動物の多数が罹患, 或いは斃死するに至り, 殊に治療中止後の遠隔成績を見るための残存動物群における混合感染が甚だしく, 実験成績の正確な批判に少なからず支障を来たした。以上の事実並びに膨大な成績表のために適当な誌上発表の機会を失したが, 今回, reticulin治療群とSM治療群の部分だけを他から切りはなして, 対照群との比較成績を, ここに報告する次第である。幸い, この両治療群のみは治療中の実験群のうちでも溶血連鎖球菌の汚染をうけた個体が少なかつた。治療中止後の観察群は大部分が混合感染をうけた。混合感染の有無は剖検表の備考欄に記載してあるから成績の判読に際して参照されたい。治療実験に入るに先立ち, reticulinの結核菌に対する発育抑制効果をSMのそれと比較した成績を示した。
著者
朝田 康夫 上尾 八郎
出版者
公益財団法人 日本感染症医薬品協会
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.284-287, 1960

先に我々は, 皮膚科領域の感染症において, その主役である葡萄球菌について各種抗生物質 (Chloramphenicol, Erythromycin, Oleandomycin, Tetracycline, Streptomycin, Penicillin, Sulfaisoxazole) に対する耐性の状態を報告した。現今, 抗生物質耐性葡菌の問題はますます注目されているが, 近時これら耐性葡菌に対する新抗生物質の出現もまたきわめて活発である。今回我々は, これら抗葡菌性抗生物質の1つとしてMikamycinをとり挙げ, 葡菌に対する耐性, 感受性ならびにその製剤の化膿性皮膚疾患に対する臨床治療効果について検討したので, 報告する。<BR>Mikamycinは, 新井, 米原, 梅沢等によつて報告された<I>Streptomyoes mitakaensis</I>から分離された新抗生物質であるが, その物理的, 化学的および生物学的報告については, 新井, 米原, 梅沢, 竹内, 田中, 岡部等による詳細な研究報告1.2.3.6) があるので, ここには省略する。また, このMikamycin類似の抗生物質としてはStreptogramin (CHARNEY1953), Staphylomycin (No.899物質DE SOMER1955), PA114 (CELMER1955), E129 (LEES1953) 等が報告されており4), その抗菌スペクトルはErythromycin-groupとほとんど同様であるとされている。これら諸物質とMikamycinとの比較についても, 多くの報告がある。その後, MikamycinにはA, B両物質が単離され, この両者の一定混合比において, その相乗効果が最大となることがみとめられた。すなわち, A10~90%, B90~10%の比で相乗効果が大きいことがみとめられており, ことにA60~70%, B30~10%の混合比で最大の相乗効果があるとされている。今回我々の使用したMikamycinA, B complexは, Aを70%, BがAに対して10%以上となるように製られたものである。このMikamyccinA, B complexと各種抗生物質Erythromyccinpropionate (Ilosone), Chloramphenicol, Tetracycline, StreptomycinおよびKanamycinを使用して, 京大病院皮膚科外来患者の諸種膿皮症から分離した葡菌および皮膚科病舎および外来の空中から分離した葡菌等, 合計31株の葡菌に対する感受性, 耐性を検討した。次いでMikamycin含有軟膏 (組成は後述) を使用して, 各種皮膚感染症に対する治療効果を観察した。
著者
中田 大輔 三輪谷 俊夫 繁田 幸男 上保 俊男 菅 賢郎
出版者
公益財団法人 日本感染症医薬品協会
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.6, no.6, pp.327-329, 1953-07-25 (Released:2013-05-17)
参考文献数
11

細菌の生化学的変異株 (Anxotrophic mutant) を利用して細菌のアミノ酸代謝を研究し, アミノ酸, ビタミン等の微生物学的定量をおこなうことが盛んになつている。変異株分離に際しての技術的な困難さが問題となつていたが, DAVIS (1948), LEDERBERG (1948) によつてそれぞれ別個に考案発表されたペニシリン・スクリーニング法によつて, 比較的容易に変異株が得られるようになつた。ペニシリンが増殖期にある細菌には強い抗菌性 (殺菌性) をもつが, 静止状態の細菌には作用し難いという特性を巧みに利用した方法であつて, 生物学領域においてのペニシリンの特殊な応用面として興味深いものである。私達は実験菌としてSalmonella enteritidisを用い, まずペニシリン・スクリーニングの再現性を確め, ついでこの方法を応用してS. enteritidisのアミノ酸要求性変異株を分離することができたので, その成績を報告する。
著者
鈴木 辰四郎 堀内 博
出版者
公益財団法人 日本感染症医薬品協会
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.61-64, 1955-03-25 (Released:2013-05-17)

1952年に国立予防衛生研究所梅沢浜夫博士は, 鎌倉の土壤中から分離したStreptomyces erythrochromogenes Krainsky-W 155 C株の培養液中から1種の抗生物質を精製抽出し, 抗腫瘍性のあることから, これをSarkomycinと命名した。その後, Sarkomycinは動物実験の段階を経て臨床実験に移されたが, その結果に就いては昭和29年5月の第54回日本外科学会総会の席上, 関東逓信病院外科の石山博士等が報告した。石山博士の症例は90例に達したが, 概ね悪性腫瘍の末期症状を呈するものが多かつた関係上, 効果は著明とは言い難かつた。しかし, 臨床的並びに病理組織学的に効果の確認されたものがあり, しかも副作用の皆無に近いと云う事実から, 悪性腫瘍に対する化学療法剤としての期待が大いに持たれた。従来, 悪性腫瘍に対する化学剤としてはNitrogen mustard N-oxide (Nitromin) あり, 近くは8-Azaguanin (Azan) が登場して来ているが, 前者はもちろんのこと, 後者に就いても吾々の使用経験では副作用を認め, 治療の続行を不可能にすることがあつた。私は遇然の機会を得て, 梅沢博士から供与されたSarkomycinを腹腔肉腫と診断された1患者に, 相当の長期間にわたり連続使用し, その臨床的経過を詳細に観察することが出来たので報告する。
著者
鎌田 英男 若木 重敏 工藤 士郎 熊部 潔 香川 恒雄
出版者
Japan Antibiotics Research Association
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1958

Carzinophilinは, 秦等によつて, 土壌放線菌の吉田肉腫に対する抗腫瘍性を検索中発見された抗腫瘍性物質である。本物質を産生する放線菌は<I>Streptomyces sahachiroi</I>と名付けられ, 培養条件の検討およびCarzinophilinの抽出に関する報告は既に秦等1) によつて発表されている。更に本物質の結晶化に関する研究は, 鎌田等2) によつて完成され, 島田3) 等を中心とした130余例に上る臨床実験を経て, 有効な抗腫瘍剤として使用されているものである。<BR>Carzinophilinの性質の概略を述べると,<I>St. sahachiroi</I>の培養液から醋酸ブチルに転溶し, メタノール添加によつて白色針状結晶として得られる。水に難溶であるが, pH9.0附近の重曹水には少しとける。水溶液中の紫外部吸収は, 218および250mμ附近に極大値を示す。臨床的には腫瘍の軟化縮小, 腫瘍細胞の崩壊が起り, 症状の緩解, 生存日数の延長がみられる。腫瘍別にみると, 肉腫, 白血病 皮膚癌, 胃癌, その他に効いている。実際, 腫瘍患者の治療にも多く使われているが, 薬理作用の一端を検討したので, ここに報告する。<BR>先ず<I>in vitro</I>において, 薬剤と腫瘍細胞と接触させ, 薬剤が細胞の原形質膜を破つて侵入し4), 代謝機構のどこかに阻害を示し, やがて細胞の変性崩壊または分裂等の作用として現われる過程を逐次追及した。次いで,<I>in vivo</I>において, その作用がどこまで再現されるか, 更に担癌動物にCarzinophilinを投与し腫瘍の増殖経過ならびに担癌動物に与える影響を毒性および正常機能の回復という面から検討した。特に腫瘍の悪性度や, 進行度と密接に関連していると考えられている肝カタラーゼ活性に着目し, Carzinophilin処理後の肝カタラーゼ活性から全身状態の緩解を推定した5), 6)。以下, 8章にわけ逐次報告する。
著者
真柄 正直 高瀬 善次郎
出版者
公益財団法人 日本感染症医薬品協会
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.71-73, 1959-04-25 (Released:2013-05-17)
参考文献数
3

産婦人科領域における感染症, すなわち産褥熱や子宮癌の場合における術前術後の感染症, および子宮付属器炎等について, 我々は以前から嫌気性菌を指標として, 諸種の抗生物質の実験的ならびに臨床的効果について, 種々検討して来たのであるが, その結果によると, StreptomycinやPolymyxin B等を除く他の抗生物質に対して, 一般に嫌気性菌は高い感受性をもち, 中でもTetracycline系 (以下, TC系) 抗生物質の効果は顕著であつた。更に近時, 多くは子宮癌手術後の患者についてであるが, 抗生物質を使用した後に, 大腸菌群を主な原因菌とする腎盂膀胱炎の発現率が以前に比較して多い事実は明らかな菌交代現象とは断定し難いとしても, 興味ある問題として注目されている。今回, 我々は日本抗生物質学術協議会からPyrrolidinomethyl-tetracycline (以下, PRM-TC) の提供をうけ, これを産婦人科領域における感染症の治療および予防に使用したので, その成績について報告する。PRM-TCは, Hoechst社において部分合成的な方法でつくられたTC系抗生物質で, その抗菌スペクトラムは従来のTC系抗生物質と同様であり, 従来のTC系抗生物質の静注用のものに較べて, 次のような特長があるといわれている。1) 注入箇所の静脈刺激, 血栓形成等がなく, 高濃度の溶解液を静脈内に投与できる。2) 血中濃度が非常に高い。3) 腸内排出が僅かである。4) 尿中濃度が高く, 持続も長い。
著者
野原 俊一
出版者
公益財団法人 日本感染症医薬品協会
雑誌
The Journal of Antibiotics, Series B (ISSN:04478991)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.163-173, 1966-06-25 (Released:2013-05-17)
参考文献数
30

今日, 腟トリコモーナス症に対しては, 局所療法のみでは不十分で, 経口投与による全身療法が必要であることは文献に明らかなところである。一方, 腟トリコモーナス患者のうち, 妊娠中の患者は12~30%といわれており1, 2), 著者の調査では, 27.5%に及んでいるが, この事実は, 腟トリコーモナス症の治療に当つては, 妊婦に抗トリコモーナス薬剤を投与する機会が多いことを物語つている。 ところで, 妊娠中に薬剤を投与するばあい, その薬剤が, 妊婦, 胎児に対し, 安全でなければならないが, 現今, 使用されている経口抗トリコモーナス薬剤については, まだこの問題が解決されていない。私は, 本問題について1つの解答を見出すため, 現在, 使用されている経口抗トリコモーナス薬剤, Azalomycin F monoacetate, Piperanitrozole, Metronidazoleの妊娠マウス胎仔に及ぼす影響について実験的検索をおこない, 以下に報告する結果を得た。