著者
甲村 浩之 長久 逸 原田 隆
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.51-59, 1994
被引用文献数
6 11

アスパラガス (<I>Asparagus officinalis</I> L.) 優良株の組織からの多芽集塊および多芽集塊からの不定胚形成を利用した大量増殖培養系の確立について検討し, その可能性を実証するとともに基礎的知見を得た.<BR>1.アスパラガスの品種'ヒロシマグリーン' (2n=30) の若茎の茎頂を, アンシミドール10mg•liter<SUP>-1</SUP>およびショ糖30g•liter<SUP>-1</SUP>を添加したMS液体培地を用いて, 回転培養法により培養するとコンパクトな多芽集塊を誘導することができた. この多芽集塊は,1か月ごとの継代培養により増殖を繰り返し2年間維持されており, この間カルス化および染色体数の変化は認められなかった. また, 多芽集塊は, 本実験に用いた他の品種•系統においても同様な方法により容易に誘導することができた.<BR>2.多芽集塊を直径約2mmの大きさに分割して2,4-D 10<SUP>-5</SUP>Mを添加したMS寒天培地に移植すると, 容易にカルスを形成し, 発達した不定胚を含む embryogenic callusも10~20%の率で誘導することができた. これらのembryogenic callusの頂端の部分を分離し, 同じ培地で2週間ごとに継代培養すると, 安定的に不定胚を形成するembryogenic cell lineが得られ, 現在までに約1年間 (24回以上の継代培養) 不定胚形成能力を維持し続けている.<BR>3.多芽集塊は継代培養を行わず3~6か月間同じ培地で回転培養を続けると表面に球状胚と考えられる集塊組織を多数形成し, これらを2,4-D 10<SUP>-5</SUP>Mを添加したMS寒天培地に移植すると, 30%以上の高率で容易にembryogenic caUusを誘導することができた.<BR>4.多芽集塊から不定胚を形成させる培養系において再生した植物体約2000株については, アルビノやわい化などの異常は認められず, 染色体数 (15株観察) の倍化変異も認められなかった.<BR>以上の結果から, アスパラガスの多芽集塊誘導とそれに続く不定胚形成を利用した大量増殖システムは, 育種や栽培などの促進と改善のための有効な手段になると考えられる.