著者
長内 和弘 栂 博久 高橋 敬治
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

肺胞II型上皮細胞で産生される肺サーファクタントは肺の恒常性維持に不可欠な物質であり、複数の脂質・アポタンパク質から構成される。本研究により、肺サーファクタントのリン脂質主成分であるフォスファチジルコリンは小胞体で合成後、ゴルジ装置を介さない経路で層状封入体へ輸送され貯蔵される。一方、アポタンパク質成分であるサーファクタントプロテイン-Aは小胞体で合成後、ゴルジ装置へ輸送され糖修飾を受け、層状封入体へは輸送されずにそのまま連続的に細胞外へ分泌され、エンドサイトーシスにより細胞内へ再び取り込まれ、層状封入体へ輸送されることが判明した。また肺胞II型上皮細胞内にはゲル濾過カラム上分子量約110kDにピークを有する、サーファクタントのエキソサイトーシスを誘発するタンパク質が存在することを発見し、その性質分析を行った。さらにコレラトキシンによる肺胞II型上皮細胞のアデニレートサクレース連関3量体Gタンパク質の活性化は予想に反してサーファクタントの分泌を強力に抑制することが明らかになった。これらの結果はこれまで信じられてきたサーファクタントの輸送経路が誤ったものであることを示し、肺サーファクタントの分子生物学に新知見をもたらした。さらに肺胞内水分クリアランスにおよばす肺虚脱の影響、薬剤の効果を明らかにした。これらの知見は今後急性呼吸不全の病態解明、治療法の開発に役立つと思われる。これらの研究成果は医学雑誌、学会・研究会での口頭発表、医学誌への著作などを通じて随時公表した。とくに欧米の医学雑誌に掲載されたもののImpact Factor(1999 Jounal Citation Reports,ISI社)は合計11.295であった。