著者
長坂 成行
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.40, pp.248-229, 2012-03

天理大学附属天理図書館に中山正善氏が寄贈した『太平記』写本は、従来存在が知られておらず旧著でも触れえなかったが、披見を許されたのでその調査結果を報告しておく。四〇巻四〇冊存で巻二二をもち、本文的にはいわゆる流布本系統の写本であるが、古活字版のうち慶長一〇年刊本の特徴を多く持ち、同版がかんこうされて以降の書写本と推察される。また書誌的な特徴として、表紙裏張に古活字版『医学正伝』巻二の刷反古を使用していることが挙げられる。『医学正伝』の版種までは確定できていないが、同古活字版の刊行に近い頃に、刷反古を利用できる環境のもとで制作されたと推定できる。学習院大学蔵本『平家物語』写本など、表紙裏張に古活字版の刷反古を使用した本がいくつか報告されており、それらとの関連の上でも注目される写本である。
著者
長坂 成行
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.41, pp.382-366, 2013-03

『太平記』諸本は、巻数及び巻区分のあり方を基準にして甲乙丙丁の四類に分類されるが、巻区分が特異な丁類本についての研究は、他系統に比べ未だしの所がある。本稿では丁類本系統の詞章を持つと判断される、『銘肝腑集鈔』・『太平記聞書』について検討し、『西村随筆』が触れる天文古写本を紹介した。また『興福寺年代記』が依拠した『太平記』、および伊勢貞丈編纂の『異本太平記抜書』の異本も丁類本の未紹介の写本であろうと推測した。従来、これらの資料は断片的に言及されてはいるが、丁類本が享受された痕跡を示すものとして改めて考察した。
著者
長坂 成行
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.14, pp.p31-47, 1985-12

尾張藩士稲葉通邦が、親友神村忠貞所蔵の宝徳年間奥書を有する古写本『太平記』三十九巻(巻二十二は欠)の書写かつ校正を了えたのは安永十年(一七八一)二月のことであった。この通邦書写本は、今日国立国会図書館に現蔵、宝徳本『太平記』と通称されるが、巻一から巻十までしか残存しない零本で、それが故に奥書年代の古さにもかかわらず、さして重視される伝本ではなかった。だが同じ頃(通邦が書写したやや後かと推される)同藩の国学者河村秀頴が、その架蔵無刊記整版本『太平記』(以下これを河村本と呼ぶ)に問題の宝徳古写本と整版本(流布本)との校異を朱書しており(名古屋市立鶴舞中央図書館蔵)、これによって宝徳本の巻十一以降の本文の様相をかなりの程度具体的に窺い知ることが出来る。小稿は河村本の校異による宝徳本の復元、および諸本の中での位置付けを試み、そこから派生するいささかの問題を提起しようとするものである
著者
長坂 成行
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.32, pp.59-74, 2004-03

島津家本『太平記』は、江戸前期の『参考太平記』で異本校合の対象となった写本で、また巻一を中心とした特異な詞章が注目され『太平記抜書』の類も作成された。が以後、長く所在不明でその全貌は明らかでなかった。薩摩の『島津家文書』は東京大学史料編纂所に一括して収められており、その中に当該写本が存在することを、近時確認した。小稿は島津家本『太平記』の本文の特徴について巻ごとに調査したものである。その結果、巻一は他本のどれとも同定できない独自の本文を持つが、巻二以降は古態本の中の神宮徴古館本と同じ系統であることが明らかになった。本稿は巻二十までの報告である。後半の調査の結果も今回の結論と矛盾しない。