著者
長岡 純治
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1_011-1_024, 2014

アントニ・ファン・レーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek,1632-1723)は,自作の顕微鏡を駆使することで,細菌や原生動物などを発見し,また,赤血球や筋肉の横紋などを観察したことはあまりにも有名な話である。同時に,彼はバッタのような無脊椎動物を含むあらゆる動物の精液を観察することで,運動する能力を有する赤血球より小さな細胞,すなわち,精子を発見すると共に,精子が懸濁されている精漿部分にスペルミンの結晶を見出し,単純な液体ではないことを報告した。しかし,あらゆる動物の精巣で形作られた精子は,自発的に運動能を獲得するわけではないし,ましておや,受精能も持つわけでもない。例えば,哺乳類精子は,精巣の細精管の中でその形は完成するが,その後,セルトリ細胞から放出・排精されても,本来の運動能も受精能力も持たない。そして,オスの生殖輸管である精巣上体とそれに続く輸精管,さらに射精により,メスの生殖輸管である膣,子宮,輸卵管へと移動することで,次第に運動パターンと激しさが変化していき,その過程で受精能が獲得(capacitation)される。