著者
荻原 新八郎 長田 勉 立野 勝彦
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.531-538, 1992-09-01

肩関節周囲炎患者にはたいてい鉄亜鈴またはアイロンを持たせ, アイロン体操と称してコドマンの振子運動を行わせている。その理論は, 重りが肩関節の軟部組織を伸張し, その周囲筋の弛緩を助長させると考えられている。しかし, 重りを手で握ることによる手部・前腕の筋群の収縮が肩関節周囲筋の収縮を生じさせ, それが振子運動の目的を損なうのではなかろうか? 右手首に2kgの重錘バンドを巻かせるか, あるいは同じ重さの鉄亜鈴を持たせ, 振子運動時の三角筋および棘下筋の積分筋電図を比較した。また振子運動の方向別, すなわち前後, 左右, および時計回り分回し運動による比較も検討した。被験者は15名の理学療法学科の男子学生で, 被験者自身も対照群とした。その結果, 積分値はすべての筋において重錘バンドを巻いて振子運動を行うよりも鉄亜鈴を持って行う方が有意に大きかった。振子運動の方向別については, 前後方向の動きの場合には三角筋中部線維の積分値が有意に小さく, 左右方向と時計回り分回し運動の場合には三角筋前部線維のそれが有意に小さかった。棘下筋の積分値はすべての方向の動きにおいて有意に大きかった。この実験の結果, 重錘バンド・鉄亜鈴を用いた振子運動ともに肩関節周囲筋の収縮は生じたが, 前者の場合, その程度が小さいことが判った。したがって重錘バンドを用いる方が目的を達するのに適しているのではなかろうか。また振子運動は前後左右の動きのみ行わせ, 分回し運動は避ける方がよいであろう。上肢の末端部に重りをつけない振子運動時の積分筋電図も以上の結果と比較・検討してみる必要がある。