著者
長田敏行 長谷部光泰 鳥羽太陽 種子田春彦 P. R. Crane
出版者
植物研究雑誌編集委員会
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.91, no.suppl, pp.120-127, 2016-12-23 (Released:2022-10-20)

山梨県身延町上八木沢の雄のオハツキイチョウの一枝にギンナンがなり,そのギンナンから実生が得られた.この木は多くは正常な花粉嚢をつけるが,葉の上に花粉嚢をつけることで,オハツキイチョウとして発見されている.上八木沢のオハツキイチョウで見られた局所的な性転換は,これまで考えられていたより,もっと多く起こっていると思われる.また,現生イチョウの雌雄異株性は,同一植物の別な位置に花粉と胚珠を付ける雌雄同株から進化してきたと思われる.このような雌雄同株から雌雄異株への転換は,性染色体のZW型の分化を伴って起こった可能性があるが,この場合Z 型染色体の方が若干大きくなっている.なお,ZWの組み合わせで雌性を発現し,ZZ の組み合わせで雄性を発現する.イチョウにおいての性転換の分子機構は,未だ分かっていないが,ある種の被子植物においては雌性の発現は特定の転写因子により制御されていることが知られている.その転写因子が,雄性由来のマイクロRNA により負に制御されて雌性を抑制し,雄性の発現をもたらすことが報告されている.同様なシステムがイチョウで起こっているのかどうか,あるいはまったく別の機構であるかどうかは今後の研究に待たねばならないが,雄性特異的マイクロRNA の局所的破壊によりこの雄のオハツキイチョウにおいて胚珠の形成された可能性は検討に値する.